ギロ←クル/付き合ってないけど肉体関係にはあるふたり





絶対自分のものにはならない貴方が、好きだった。
肌を優しくなぞるあの節くれ立った指先も、甘くはないが愚かなまでに実直に言葉を吐き出す唇も、心配して労わる素振りも、身体を重ねるたびに中に放たれる熱い精も、全て自分のものにはならない。
分かっている、嫌というほどに理解している、何一つ手に入れられないし、今だけの紛い物だと知っているし、それでいいと望んだのも自分だ。
「大丈夫か?」
言葉に含まれている優しい響きは気のせいではないが、誰にでも優しいだけで、ただ1人俺だけが特別なわけではない。
情事の後に風呂に入れられたと思ったら、獲物に狙いを定めた獣のような目をした男に身体中を洗われて、そのまままた身体を重ねてきたばかりで、立ち上がる気力はない。
1人で寝るには大きすぎるベッドに突っ伏したまま、返事の代わりに左手を上げれば、上げた左手を掴まれた。ベッドに仰向けに転がされて、下着しか身につけていないギロロの肉体がのしかかってくるのを横に転がって逃げたがすぐに腕を掴まれてギロロの腕の中に戻される。
「逃げるな」
「逃げるに決まってんだろ、アンタみたいに筋肉で出来てねえんだよ、こっちは」
徒労に終わるのは火を見るよりも明らかなので、腕の中で逃れようと足掻いたりはしない。力では敵わないのなんてとうの昔から知っている。
「大丈夫か?」
先ほど聞いて、わざと返事を返さなかった言葉が繰り返される。
大丈夫か大丈夫じゃないかでいうなら、いつだって大丈夫じゃない。
「何がだよ」
「聞かれたくないなら辛そうな顔をするな」
「んな顔した覚えはねえっての」
頬を撫でる暖かい手の平を振り払う。
まるで恋人に語りかけるかのように恥ずかしげもなく愛を囁いて、恋人に向けるような優しい眼差しを向けて、恋人を扱うように壊れないようにそっと触れられても、永遠に恋人にはなれないのだと言われているようで、胸が軋む。
ギロロの肌に触れた所から、熱くなる。
後ろから抱きしめられるが、ただそれだけでそれ以上踏み込んではこないギロロの腕に抱かれているのは心地いいが、落ち着かない。
「しねえの?」
「してほしいのか?」
そこに愛も恋もない、身体だけの関係だからこそ一緒にいられる。好きな相手が他にいると安心しているから、ベッドの中だけの睦言にも耳を傾けられる。求められていないから、身体を預けられる。好かれていないから、好きでいられる。
「しねえなら帰る」
「行くな」
真後ろからの声に振り向けば額に触れるだけのキスが落とされる。
「そういう事、すんな」
「嫌か?」
「恋人みたいで気持ち悪い」
こんな恋人みたいな事は、恋人が出来てからその恋人にしてくれればいい。
ギロロの腕の中を名残惜しいと思ってしまう心を殺してベッドから立ち上がれば、ベッドに寝そべったままのギロロと目が合う。
ベッドの脇に脱ぎ捨てたままになっていた服を拾い上げて袖を通していく。ラボに戻るなら、その前に倉庫に寄って次の侵略に使う予定の兵器のパーツが揃っているか確認しておきたい。足りないものがあれば発注しておかないといけない。
武器は、必要とされている。丁寧に磨かれて、大切にされて、いつでも側に置かれて、羨ましい等と下らない思考をかき消して服と一緒に地面に置き去りにされていた携帯に手を伸ばす。
伸ばした手が更に後ろから伸びてきた手に掴まれ、軽々と抱き上げられてまたベッドの上に引き戻される。ベッドの上で、ギロロの腕の中にすっぽりと収められ、手足をバタつかせて逃げようとするが、効果があるようには見えない。
「行くな、それとも抱き潰した方がいいのか?」
「……分かったから、離せって!」
真正面から顔を寄せられて言葉に詰まる。唇が触れそうな距離まで近づいてきたギロロの顔を手で押しやって、寝る、と一言だけ言葉を漏らせば返事の代わりに笑顔が帰ってくる。
いつかいた、これから先に出来るだろう恋人にはそんな優しい顔を向けるのか、とまた胸が締め付けられる。身体を繋げるだけの淡い関係は、きっとこの地球の中でしか続かない。他には誰もいない閉鎖空間だからこそ、ギリギリの所で成り立つ、消える間際の夢のような束の間の幻だ。
ギロロとの情事で疲れきった身体は、休息を求めていて、意識が微睡みの中に吸い込まれていく。うとうとと瞼を閉じながらも、目を合わせたくなくてギロロの胸に顔を埋めた。
「先輩?」
返事はない。そっと顔をあげてみれば、1人でさっさと眠ってしまっている。その無防備な姿に苦笑を漏らして、腕の中から抜け出してしまえないかと考えるが、ギロロを起こさずにここから抜け出すのは難しい。
用事にしたって明日の会議の時間が一時間遅くなった事を伝えておかないといけないだけなので、わざわざ起こしてまで伝えるような事ではない。何ならわざと伝えずにおいて、一時間たっぷり待たせるのも、悪くはない。
はやく、心をへし折って、破いて、踏んで、粉々にして、こんな想いは初めから間違いだったと思わせて欲しい。嫌われたい、嫌いになりたい、必要とされたくない、必要だと思いたくない。望んでも手に入らないなら、初めからない方がいい。
「はやく、諦めさせて」
口に出せば思っていたよりも空虚な響きが広がる。言葉の名残をかき消すように、眠っているギロロの唇を奪って瞼を閉じた。


明日、目が覚めたら嫌われていればいい。
明日、目が覚めたらこの夢が醒めていればいい。
明日、目が覚めたら、明日。




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