ピオジェ/学パロ/モブ主人公





授業の移動のために廊下を歩く私を誰かが引き止めた。その声に応じるように後ろを振り返れば同じクラスの男子生徒がいた。きれいな黄金色の髪を乱しながら汗をぬぐう彼はこの学校の生徒会長で容姿端麗、そのうえ超がつくほどの大金持ちという主に金銭面が様々なクラスの服装の派手な女子に大人気だが性格的になら彼の蔭口を聞いたことがないくらいには男女問わず普通に人気がある。
「あの…何ですか?」
「こんな目をした奴を見かけなかったか?眼鏡をかけていて瞳の色は赤、髪は亜麻色で背は…俺よりは低いが結構高い」
こんな、といいながら不機嫌そうに眼を吊りあげる彼に苦笑がもれる。彼の探し人の正体はおそらく隣のクラスのジェイド・カーティスだろう。ピオニーと一緒に生徒会のトップを飾り、静のジェイド、動のピオニーとして評判である。しかしピオニーが万人に好かれるのに対し、ジェイドはあまりいい噂は聞かない。仕事は早く、その点に関してだけ言えば評判は悪くはないのだが如何せん口が悪いらしく割といろいろなところから恨みを買っているらしい。(そういえば幼馴染でもある二人が交際しているらしいという情報も入ってきている。それが勝手な憶測か真実かは私の知るところではないが。)
「えっと…その探し人が隣のクラスのジェイドさんで合ってるなら見ましたけど」
「あいつどっちに行った?」
「つい5分ほど前にピオニーさんが今来たほうへ」
「…あーくそっ!あれほど勝手にどっかいくなって!あの方向音痴め!!」
「失礼ですね、あなたと一緒にいなくても道くらいはわかりますよ」
突然響いた声を探せばその声はピオニーの真後ろから聞こえて、ピオニーがびくりと震えてから慌てて振り返った。
「おま、ジェイド!いったいどこに行ってたんだ!」
「どこかの誰かさんがこぼした絵具が手に付いたので手を洗いに」
「…悪かった。」
「分かれば結構ですよ、ところでそちらの方は?」
両者から向けられる視線に一瞬たじろぐ。大丈夫、大丈夫、大丈夫。私の気が楽になるおまじないだ。
「私、ピオニーさんと同じクラスのしがないじょしです。」
「しがない?」
「志賀内 杼子って名前なんです。やっぱり変ですよね、こんな名前。」
「いえ、少し変わった名前ですが変ではありませんよ。ところで会長、こんな所で油をうっている暇もないくらいに生徒会は忙しいはずなんですが」
この名前を変ではない、と言い切ったのは二人目だった。本人からすれば何でもないような言葉でも私にとっては天使の囁きにも聞こえる。にこ、と綺麗な笑みをピオニーに向けるジェイドの顔は確かに笑っているのだが目は笑っていない。正直あの目で笑いかけられたくはない。
「いや…それはだな…ほら、ジェイドがいなくなったから」
「問答無用です」
ずるずるとピオニーを引きずっていくジェイド。そういえばジェイドに礼を言うのを忘れていた。実際、言葉では足りないくらいに感謝しているのだ。たかが名前、されど名前。名前は常に私に付きまとうのだ、私が望む望まないに関わらず。
「あ、あの!ジェイドさん、ありがとうございます」
「お前、何かしたのか」
「いいえ、何かした記憶はありませんよ」
「名前、変じゃないって言ってくれたのが嬉しくて。もし私に何かできることがあれば言ってください!」
「それは助かりますねぇ、生憎と何処かの生徒会長にサボり癖がついているせいか人出が足りないんですよ」
「な、馬鹿なんで俺の所為なんだよ!生徒会が万年人出不足なのはどっちかっていうとお前の所為だろうが」
「なんの事かわかりませんね」
甘い声を繕ってはいるもののその表情はまったく笑ってはいない。正しく言うならば表面上は笑っているのだが事実、愉快で笑みを零しているわけではない。
「それでは志賀内さん、最低でも文化祭が終わるまでは生徒会の手伝い、お願いしますね」
もしかすると助力を申し出たのは些か早計だったかもしれない。そうは思っても過去に口にしたことはなかったことにはならないし、かといって全く関わりあいたくない、というわけでもない。少なくとも文化祭までの一か月間は私の日常からは余暇が消えそうだ。









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