ピオジェ/秘預言
勢い良くドアが開け放たれ、憎悪に満ちた視線が宙を彷徨い、こちらを見た。
「くらえぇぇ!」
譜業兵器が向けられる、もちろんその先は陛下だった。譜術を二重展開し、狙いを定めるが数の多さに圧倒される。度重なる譜術の展開に軽い眩暈と吐気を覚えるがそんな事も言っていられない。
見たところ大量の矢を一気に発射する譜業兵器らしく味方が次々に地に伏せていく。人の壁で阻んではいたが、残りの兵士の数をみれば陛下を狙うにはもう苦はないはずだ。
ついに譜業兵器が陛下に向けられる。
(くっ、間に合わない!)
譜術を諦め、敵に背中を向け、陛下を床に叩き付けた。右肩が焼けるように痛むが気にする前にやる事がある。
「これで終わりです、インディグネイション!」
キムラスカの兵の数が一気に減り、なんとか生き長らえている兵士も無傷ではない。痛みに喘ぎ、苦しんでいる間に各々の役目を果たすべく自軍の兵士達がとどめをさす。
敵の第一軍が全滅という形で退き、王宮内は静寂で満たされる。もう数少ないヒーラーが慌てて陛下に駆け寄った。
「陛下、よくぞご無事で!お怪我は」
「いい、俺よりジェイドを」
「しかし…」
「俺なら平気だ、良い懐刀がいたからな。全てかすり傷だ」
渋々といった様子でヒーラーがこちらへ近付き、一番出血の酷い肩へと手をかけた。今回は運良く掠っただけですんだものの出血が止まらない。ヒーラーが傷を塞いでくれたが失った血液は元には戻らず、気休め程度ですがと増血剤を渡される。真っ白い錠剤を口の中で噛み砕けば独特の苦さが口に広がった。
「陛下、すみません…壁も床も汚れてしまいましたね」
「喋るな、今は大人しくしていろ」
「…すみません」
「勝てると思うか?」
「勝つつもりですよ、少なくとも大臣達は」
「お前はどう思う」
「もって1回…多くても2回ですかね。元々負け戦ですよ、こんなもの。」
「はは、だろうな」
「大丈夫ですよ、貴方の首だけは取らせませんから」
「ジェイド、何を考えている」
「何も」
「嘘だ、お前がそんな目をしているときは何か嫌なことを考えている時だ」
「どうしてバレるんですかね」
「俺に隠し事なんて10年早いな」
「…レプリカ、ですよ。預言の影響をうけない者なら少しは歪みを生み出せる。少なくとも貴方が逃げおおせるくらいの歪みは」
「お前は、」
「懐刀が最後までついていなければ疑われるでしょう」
「駄目だ!お前も…」
「陛下、」
「駄目だ、許さない。民を守るべき王が逃げ出してどうする。」
「貴方が生きてさえいればまたそこが国となります。民だけでは国は成立たない」
「国は民がいてこそ、だ。俺一人で国などできるはずがないだろう!」
「貴方なら、そう言うと思っていましたよ。」
「なら、」
「ですから、少しの間眠っていてください。おやすみなさい、陛下」
怨まれてもいい、端から好かれる事など、愛される事など望んでいなかったのだ。憎んでくれればいい、詰ってくれてもいい。ただ、貴方は生きなければならない。
王座の近くにある隠し扉からレプリカを連れ出し、代わりに陛下の身体を押し込んだ。しっかりと鍵をかけ、その鍵を窓から海に投げ捨てた。これで良い、死んだ人間を探すものなどいない。
きょとんとしているレプリカに話し掛ける。
「貴方はそこの椅子に座っていて下さい。ただそれだけでいい。あと敬語は使わないように」
「分かった」
嘘を、ついた。間違ってはいない嘘をついた。椅子に、玉座に座っていてくれさえすれば格好がつく、あとは殺されてくれれば完璧だ。
ここで私とこのレプリカが殺されれば秘預言の体裁は繕える。滅んだ国の王を探す者も現われない。
これで、やっと、最悪が終わる。
.