薬売り





「ねえそこの薬売りさん、」
私がそう呼ぶと薬売りと思われる男が些かめんどくさそうにこちらをむいた。紫の紅がいやに目につく肌の真っ白な美しい男だった(私はその瞬間確かにこのうさんくさい男に恋をしていたのだ)
「なにか、ごようで?」
「ええ、お薬が欲しいの。風邪のお薬よ、お母様が風邪を引いてしまったの。」
「はあ、それは、たいへんなことで」
「だからお薬をくださいな。」
男はまたはあ、と小さく溜息のようなものを零して背中にしょっていた大きな薬箱を道の端に降ろして色とりどりの薬を出して、これもちがうあれもちがうとぶつぶつ呟いていた。ふと目に入ったのは何かに羽が生えたような、何だか得体の知れないもの。
「ねえ薬売りさん、これはなに?」
「ああ、そいつは、天秤、ですぜ」
「天秤?」
「子供の、玩具、ですよ」
「ふーん」
男は長くて真っ白な指(爪も非常に長い。そんな指で薬を扱って不便ではないのだろうか)でごく自然にいろいろな色をした粉薬なんかを混ぜて、薄い紙に包んで私の方へと差し出した。どうして差し出されたのか、一瞬戸惑ってから私が自分でこの男に風邪薬を出せと言ったことを思い出し、あ、と小さく言葉を零してから受け取った。それから男にいわれるままに代金を支払い、家路につこうとすれば男はああ、そうだとまためんどくさそうに私を引き止めた。「これ、どうぞ」と男が『天秤』だといった(そして子供の玩具だともいっていた)ものをそっと私の手のひらに置いた。男は私がぐずぐずと戸惑いを隠せないで立ち尽くしているうちにまた大きな薬箱を背負ってふらりとどこかへ消えてしまった。猫がにゃーと一つ泣いて、我に帰った私は慌てて家へと帰った(もちろん天秤は私の手の中にある。)家へとついてから私はお母様に薬を飲ませてからお母様を起こさないように忍び足で自分の部屋へと向かった。やはり天秤はずっと私の手の中にあった。私は部屋へとついてから男に渡された天秤をじっと見つめてみたが私にはそれは天秤では
なく子供の玩具にみえた。しかしどうしてあの男は私がこの天秤を欲しがったと知っていたのだろうか。それこそあの男なら「あなたとは、頭の、出来が、違うのですよ」などとのたまうのだろうか。そう思うと自然に笑みが洩れ、私は男の名残を求めるように天秤に手を触れ、思わず天秤のその独特な形をなぞっていた。そうすれば天秤は私の指の先でりんとなった。










私はその音色を聞くたびに一人の男を思い出すのだ(そして同時に指先の冷たくも優しい感触を)






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