箱の中


俺は箱の端に座っている。冷たく、固い鉄の感触がやけに現実的でなんだか嬉しく思う
薄暗く、閉ざされた箱の中にて俺は考える。まず両手を上へ挙げる。ひやり、ひやり、冷たい。
膝を抱え、目蓋を綴じた。暗い箱の中は居心地が良い。
まるで世界が俺ひとりで満たされてしまったかのような錯覚、夢と現実の境目が曖昧になる。世界と俺が混ざり合って溶けていく、ゆらゆらゆれる揺りかご、耳障りな男の声、携帯の着信音




はっと目を覚ます。そこは暗く冷たい箱の中ではなく人も疎らな電車の中で、俺は膝を抱えてはいなかったし世界は俺ひとりでは満たされていない。少しだけ安心して腕時計を見れば最後に腕時計を確認してから10分が経過していた。
もっと長かったような気もするし、はるかに短かったような気もする。これがまだ夢の中だと告げられても全く不思議に感じないくらいには頭はぼんやりしている。
俺が夢の住人だとしてその夢の主は誰だろうか、俺かもしれないしもっと違う別の誰かかもしれない。俺が眠っていたと感じている時間に夢の主は活動していて、夢の主が眠っている時間に俺が活動している可能性だってある
なんだ、俺は生きてなんていないじゃないか。安堵と焦燥。俺には何も残されていないのかせめて、せめてなにか残されていると信じたい。
ポケットの中に入れていた携帯が微かに振動する、友人からの他愛もないメールに半ば投げやり気味に返信をしてまた携帯をしまった。

まず携帯は好きでない。人の都合など考えもせず、勝手に鳴る上になにやら釦がたくさん付いて、いよいよ迷惑である。こんなものと電車の中でまで接するなんてごめんだ。
停車駅でドアが開く、人混みに紛れて聞こえるサイレンがやけに耳につく。嗚呼、今日も最低な1日が終わってまた今日という最低な1日が始まる。呼吸さえ億劫で何も感じず、考えず、ただ泥のような日常につかるのだ。



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