腐って、溶けて、消える女
私の指先が鱗におおわれ、ぐちゅりぐちゅりと腐ってゆく。ぼたぼたと元は私の体の一部であったものが落ちていく感覚とは実に不思議なもので、視覚と触覚がアンバランスに入り組んで最終的に気がついたころには私の手だったものはすべて地面に這いつくばり苦しそうにしながらも大人しくしていた。予想以上のスピードで進行する腐食に肘まで冒された私の身体はそれでも痛みなど感じることなく順調に腐ってゆく。私はこのまま消えてなくなれるのだろうか、それならそれでいいのだ。鼠や鳥が私の肉を食み、わたしはそれらの血肉の一部となって空を舞い、地を這うのだ。私という人格は消え本能のままに餌を求める存在になるのだ。憂いなどなく人生が終えられてしまうのだ。私はそれがうらやましくて仕方がない。私の最初で最後の初恋はあっという間に過ぎ去ったし、将来にこれといった期待もない、こんなことでどうやって生きていくというのだ!極端なところ私は死んでしまいたいとすら思っているのである。
そうしているあいだにも浸蝕はすすみ、じわじわと私の顔の半分くらいが鱗に包まれる。どうやら下に行く程に浸蝕は早いようですでに片足がじくじくと溶けていたようで立っているのが辛くなってきた。残った片足と片手でバランスを取りながらその場に座り込んだ。自分の身体を見てみたが皮膚が硬化して鱗になってゆく様は何だか面白いもので不思議な事に骨まで溶けるのだ。液状化した皮膚、だったものをつついてみたが特にこれといった特徴もないただの水のように見える。始めに落ちた頃は爽やかな青だったものが時間の経過と共に透明へと変わってゆくのだ。とうとうはじまった残りの手足の消失に本当のところ私はワクワクしていた。私にとって死も喪失も恐怖にはなり得なかったのだ。それどころか私は喜んでさえいた。これではっきりとした固体としてのものの生きた証がすべて消え失せて、そこにはなんの痕跡も残らずに私は死んでいける
私の意識はそこで途切れた。
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