恋に狂った女


それは間違いなく恋だった。私にはもう彼しか見えなかったし、彼以外の事など考えられなかった。私にとっての恋とは私の心の中を暴れまわり、辺りのものを手当たり次第に傷付けていく存在だ。私は怖かったのだ、愛されるのが。ずっとお前なんて必要ないと言われてきた私のようなゴミ屑が愛されているという実感を得る事が。
一層の事憎んでくれれば良かったのだ、そうすれば私は彼に永遠の愛を捧げられた。そうすれば私はそれだけで生きてゆけたのだ。私はこの想いを口になんてすべきではなかったのだ。彼への想いを抱いたまま口を噤んで生きてゆかなければならなかったというのに!
私の恋は終わってしまったのだ、霧のようにふわふわと雲のようにうっすらと気がつかぬ間に私の恋は死んでいたのだ。その後私は彼に嫌われている事を知った。
胸がはじけるように膨らみ、苦痛が身体中を支配した。それでも現実の私は普段通りの行動を続けていた。だがこれで私は改めて彼を愛せるのだ。これでようやく私の恋なのだ。私は彼を愛した。感づかれぬように距離を取り、気付かれぬように口を噤んだ。
私の恋はかえってきたのだ!遠い時間を経て帰ってきたのだ。もう私に悔いなどはなくなった。もういつ殺されても異論などないし、明日死んでしまうと言われても私はそれで構わないのだ。彼が私以外の誰かに恋し、愛する前に死ねるのならそれが私の一番の幸せなのだ。
私の話など聞いてくれなくて良い、私の事など見なくて良い、私の事など気にとめなくて良い。ただ心の片隅の嫌いなものの括りに入れられ、ふと思い出してくれれば良いのだ。私はこの想いだけで生きてゆけるのだから。
私には彼以外には何も必要ないし、また彼以外の人間にそのような感情を抱けるはずもない。彼が生きている、ただそれだけで良かったのだ。

彼の事をそっと想い、他のものなど見ないで生きてゆく事が私の唯一の幸せなのだ。
ある人は私を気狂いとよんだ。ある人は私を病人と称した。


それでも、(それでもこれが私の恋の形)




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