文章にならないものの寄せ集め


娘は母にしがみついて必死になって叫んだ。
「どうして、どうして私だけ!どうして、」
母はただただ涙を流すだけで何とも答えずに黙っていた。
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卵型のベッドに身を委ねれば羊水のカーテンがふんわりと優しく私を包んだ。「さあお眠り、私のかわいい赤ちゃん」「そうね、もう眠ってしまうわ。おやすみなさい、お母様」目を覚ませば卵型のベッドは羊水のカーテンに包んだお母様をどこかに連れさってしまっていた。

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サルモネラは言う。(あなたみたいな意気地無しは生きていてはいけないのよ!)(ああ、ああ分かっているさ、そんなことは。そんな至極簡単で単純明快な事、君なんぞに言われじとて己で嫌というほど理解しているさ。)(それならどうして生きているの?)(親が僕を生んだからさ。)(どうして死なないの?)(そんな面倒なことするつもりはないからだよ。)(どうして面倒なの?)(ただ生きるのにエネルギーは必要ないけれど死ぬという行為には僕からすれば莫大なエネルギーが必要だからだよ。)(どうして?ねえ、どうして?)


君にだけは僕は分からない(もう眠っておしまい可愛い謎かけお嬢さん)
(ひとつだけ教えてあげようお嬢さん、僕は子供が大嫌いだ)(どうして?)(そういうところだ。虫酸が走る)

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私の頭の中に次々と壊れたフィルムのような断片的な記憶が描き出される。千切れたトカゲの尻尾、祖父の小さな喉仏、溺れ沈んだ私の影、生暖かい哺乳瓶、突き刺し貫くような誰かの鋭い視線、電車のアナウンス、耳障りな産声。ああ、思い出した!これは私の亡くしていたもの。

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サルモネラは一度押し黙ってそれきり糸のきれたようにぴくりとも動かなくなった。(この人殺し!)誰かが言った。

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「もう、あなたは行ってしまうのね」
私の目からは次々と涙が零れ落ち、自分でも理解できるほどに声は震えた。
「それでも私は、あなたを待ってるから」
伸ばす手は何もつかまない。ただ空を切って私の元へとだけ帰ってきた。
「帰って、きてね」
瞳を閉じたまま頑として開けようとしないあなたに募る苛立ちを振り払うように私はあなたの唇を無了解に奪う。
それでも貴方の瞳は閉じたままだった。



貴方の亡骸にただひとつ口付けを(私はいつまでも待っているわ)
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瞳に涙をいっぱい溜めて彼はこう言うのだ。捨てないで、と。なんでもいうこと聞くから捨てないで、と。
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愛していた。この気持ちは変わらないものだと信じていた。夢のように消えてしまうなんて思ってもみなかった。


彼は、
(夢の住人、所詮触れあうことなどできぬ存在)
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口を開け、必死に音を絞り出そうと試みるがはーはーと息ばかりが漏れるだけで音などでない。私の耳には沢山の音の便りが届くというのに私からは音を返せないというのは実に理不尽かつ横暴な話だ。
目を閉じて耳をすませる。虫の飛ぶ音と子供の声、壊れたおもちゃの叩くシンバル、指先に触れる優しい感触。誰?と言いたかったが私に音は出せない、首を傾げた。
「こんな場所で何をしているの?」
私が必死に口をぱくぱくさせて気持ちを伝えようとすれば今度は相手が首を傾げる番だ。
「ごめんね、ちゃんと話してくれないと分からないや」
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*ペンを走らせ書き上げて
「アリス…今お前を幸せにしてやるから…」
男はもう暫く机から離れていなかった。アリスと呼ばれた少女を失ってから男はずっと机の前に座ってペンを走らせつづけていた、ただ黙々と。男には伴侶などいなかったし、唯一その可能性を持った少女はとうに失われていた。少女から託された男はこちらには見向きもしない。数日前に訪れた時にあいつは死んだよ、と小さく呟いただけだった。
少女が生前そうしていたように紅茶を入れたりだとか、ケーキを用意したりだとか、そういった事はとてもじゃないかする気にはなれなかったし、またできるはずもなかった。
にゃあ、と小さく鳴けば男もうるさいと小さく言った。
猫にこんな男を託すんじゃないよ、アリス。僕には到底できない事だし先生は僕の入れた紅茶なんて飲まない。




男が無理矢理奪った首輪の跡が小さく痛んだ。
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*“  ”の残骸
手の中に握られた小さなぼろきれをじっと見つめる。そこには全てが残されていて、そして何もかもが失われていた。本来の持ち主は死んでしまった、残っているのは首だけだ。それも近いうちに処分されるだろう。
失ったものは大きい。
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*君の声をずっとリピート
「     」
その言葉が何だったのか、その単語が一体なにを意味していたのか、なんて不毛な事を考えるつもりなど少しもない。
知ったからと言って何かが変わるはずもなかった。
彼が別れ際に残した言葉などに意味はない、もう何も残されてはいないのだから


(お前の為だ、なんて良く言う。そんな答え求めていたわけじゃなかった)
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*舐めあげた目玉
べろり、おぞましい。あああ、あああ、あああああ、ああ
「気持ち悪い」
べろり、べろり、や、めろ
「止めて下さい」
「どうしてだ?俺は目にゴミが入った時はいつもこうされてたぞ」
「原始的すぎます」
「そうか?でもたまにはこんなのもいいだろ」
「良くないですよ!」
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*砕け散った、の!
幾重にも工夫を重ねて閉じこめた一瞬が溢れ出す。
嗚呼、と小さく声がした。
「お姉ちゃん、どうしてそんな事するの?とても綺麗な世界だったのに」
「あれが?あんな汚い世界が?」
「綺麗だったよ、キラキラしていたもの」
「嗚呼、そう」
所詮子供の言うこと、気にする必要はない。私は私だけの美しい世界をつくらなければ。
「今のお姉ちゃんにはあれ以上の世界は創れないよ」
「あなたに何が分かるっていうの!勝手な事言わないで!私はもっと美しい記憶で世界をつくるのよ!」
「だって、お姉ちゃん、とても汚いもの」
「え、」
「お姉ちゃんが欲しい世界を創る為にいくつの記憶を奪ったのかは知らないしその手段だって知りたくもない。でもね、お姉ちゃんが今すごく悲しそうな顔をしていたのは分かるよ」
この少女はきっと何もかもをしっている。私が他人の記憶を奪って世界をつくっている事も、記憶を取り出す為にそれこそ文字通り何でもした事も、何もかもを
「うるさいわね!未成熟で意味の分からない世界が多いから本当は嫌いだけどそこまで言うならあなたで世界をつくってあげる」
「それは無理よ、だって」
2メートルはありそうな男がいきなり私の前に現れ、私のこめかみに冷たいものを押し付けた。それが一体何なのかを理解する前に私の世界は塗りつぶされた。
「私には強い味方がいるもの」


「ねぇ、どうして殺したの?私は捕縛してって言ったのよ」
「殺されかけた奴の台詞じゃないな」
「貴方のせいで惜しい世界職人を亡くしたわ」
「…すまない」
「許してあげる、さあ次の世界を探しましょう。世界と世界を繋ぐ事ができる者を探さないと」





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