マリヒュ
嘘をついてこのまま騙していてね
嘘だ、と知っていた。お互いに心の隙間を埋めるためにお互いを利用していたのだ、初めから、始まりは。
「愛してる」
ほら、また嘘をつく。心に浮かぶのは僕じゃないくせに
「ヒューバート?」
「何ですか?」
壊れ物に触れるようにそっと指先が頬に触れる。その心配そうな顔も、優しい指先も、みんな他人の物だと思えば途端に虚しくなった。それでいいと、その方がいいと望んだはずだったのにいつのまにかそれでは物足りなくなっていた。
「どうかしたのか?」
「…何でもありません。」
惨めな自分になんだか涙が溢れてきそうになって思わず俯いて顔を見られないように寄りかかる。背中に回される腕も心に重くのしかかり気分を沈ませる。
「もう、止めましょうか」
「何をだ?」
「恋人ごっこを、ですよ。ロベリアさん…でしたか、まだ好きなんでしょう」
声が震える。自分が自分でなくなったような奇妙な感覚。既視感。
「ごっこ…か、心外だな」
「貴方は嘘吐きですね」
「そうでもないぞ」
「うそつき」
「ヒューバート、泣くな」
「泣いて、ません」
どっちが嘘吐きなんですか、全く。こらえたはずの涙が頬を伝った。
「ヒューバート、今から本当の事だけ言うから聞いておけ、俺はお前だけ好きだ。」
唖然とした。この男は全て分かっていて、そして卑怯で狡賢くてわざと僕を惑わせる。その好きが僕に向いていない事も気持ちがまだ土の下に眠っていることも理解した上で、それでも仕方なしに足りないパーツを僕で埋めようとしているのだ。そして僕がそれを全て理解した上でノーと言わない事さえこの男にはお見通しなのだ、全く腹の立つ話だ。腹が立ってもノーとは言わない自分が一番憎らしい。
「ずるい、ですよ。そんな事言われたら嘘って知ってても信じるしかないじゃないですか。」
顔を上げて不格好に笑う。きっと今、僕は酷い顔をしている。泣きたいのか笑いたいのか自分でもよく分からなかった。
怖かった。自分が自分でなくなる感覚、少しずつ塗り替えられていく錯覚。敵だと疑っていたはずだったのに、いつの間にか離れたくなくなっていた、そんな自分を認めたくなかった。認めるわけにはいかなかった、認めれば今までの努力を全て無に返してしまうような気がして、自分の生きた痕跡がかき消される気がして、それが堪らなく恐ろしかった。
「ロベリアの死は忘れない、忘れてはならない。だが好きなのはお前だけだ。これじゃ駄目か?」
「駄目じゃありません、から貴方の嘘にのってあげますよ」
教官は素直じゃないなといって優しく笑った。その表情が余りに優しくて出そうになった悪態を口の中に納めた。
その優しさが一番卑怯だとは言えなかった。
嘘でもいい(その嘘に騙されたふりをしているから、この手を離さないでいて)
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