マリヒュ


口に出せばそこから全て綻んで消えてしまうような気がした。

「卑怯者」
口に出した言葉は自分に向けての物なのか彼に向けてものなのか分からない。
またひとつ、石を積み上げる。
「優しい」 ひとつ
「かっこいい」 ふたつ
「頼りになる」 みっつ
積み上げた石は山となり、今にも崩れそうだ。石に呪いをこめて積み上げる。
彼に見放されませんように。彼に捨てられませんように。彼の前に魅力的な女性が現れませんように。
積み上げた石の数が彼への想いならこれでは少なすぎる。僕がこんなにも苦しい思いをしているのにたったこれぽっちの気持ちしかないはずがない。
「紳士的で」ひとつ
「誰にでも優しくて」ふたつ
「僕だけ見てくれればいいのに」みっつ
溜息。何をやっているんだ、馬鹿馬鹿しい。あの人は最初から僕のことなんて見ていない。あの人は最初から恐らく終わりまで一人の女性しか追いかけていない。
どんなにくるしい想いをしたってあの人は誰にも奪えない。奪う相手ももういないし過去には張り合えない。
自分が惨めでならない。生まれて初めて知ったこの気持ちにはどこにも行き場はない。ましてや相手は同性だ、相手が異性ならとにかくきっと世間が許さない。初恋は叶わないなんて本人の努力が足りないせいだと笑い飛ばせた過去の自分が羨ましくすらある。
「なんで、どうして僕なんかに優しくするんですか」ひとつ
積み上げた石がバランスを失って全て崩れてきた。積み上げた石が崩れ落ちるのも気にせずまた途中から積み上げていく。
ふと思う、これが僕か。必死に背伸びをして高くなったつもりで、バランスばかり悪くて、すぐ崩れてしまう。今だってそうじゃないか、何を悔んでいるんだ。何を悲しんでいるんだ。何を、恐れているんだ。
何かが頬を伝って初めて自分が泣いている事に気づく。後ろから足音が聞こえて思わず膝を抱えた。自分でも何が悲しくて泣いているのか分からないのに人に泣き顔なんて見られたらたまったもんじゃない、とんだ恥晒しだ。
「ヒューバート?」
嫌な予感というのは往々にして的中するものでやはりというか思った通りというか僕を探しにわざわざこんな辺鄙な川原のしかも目立たない橋の下にまでやってきたのは初恋の相手で酷く卑怯で意地悪な男だった。
「こんなところにいたのか、いくら日中だからってずっとこんな場所にいたら風邪ひくぞ」
どんな優しい言葉にも僕は答えを返せない。声を出せば泣いていた事がばれてしまうし臆病なくせに人に優しいこの男はそれが余計に僕を傷付けると知っていても慰めようとしてくれるはずだから、余計に何も言えなくなる。
鋭いこの男のことだ、何かを察したのだろう。無言で背中にもたれ掛かり、小さな声で見てないから泣くなら泣いててもいいぞと呟いた。何かもお見通しなのか、ほんとうに嫌らしい。
「全部貴方のせいじゃないですか」とは言えなかった。僕が勝手に想っているのにそんな勝手な事言えるはずがなかった。そう思えば思うほど涙が溢れ出た。その気持ちは恋だ、と教えてくれたのはその憎らしい男で、そしてそんな気持ちにさせて僕を苦しめているのも同じ男だ。
「泣いて、ません」
「ああ」
きっとばれている。声が震えているし鼻だってずるずるでお世辞にもうまく誤魔化せたとは言い難い。
「一人にしてくれませんか?(好きです)」
「もう少ししたらちゃんと戻りますから(貴方が好きで仕方がない)」
「お願いします(気が、狂いそうだ)」
「分かった、ちゃんと戻ってこいよ」



自分の想いをみんな隠してしまって、その内にそのまま消えてしまえばいいんだ。こんなことなら恋なんて知りたくなかった。







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