ギロ←クル/付き合う前のふたり





ふと世界が真っ暗になった。ここはどこだ、ここには誰がいるのだ。
ぽつぽつと頭上から聞こえる音と肌に触れる滑らかな感触。これは、雨か。ふわふわとした捕らえどころのない闇の感触に戸惑う。なにかが手を掴む。掴んだ、のではなく掴まれた、のだ。かたくかたく、つよくつよく、つかまれる手の平が悲鳴をあげるが不思議と痛みは感じない。頬を水が伝う、その感触が気持ち悪いが身体が何かで固定されているかのように重く、ぴくりとも動かない。かさかさと身体中を這いまわる乾いたものが徐々に消えてゆき、また同じものが身体を這いまわる気持ちの悪い感触。
重く閉じた瞼を開こうとするがかたくなに開こうとせずに、視界は閉じたままだ。口唇に暖かい何かが触れる感触。ふと雨が空から零れ落ちるように、自然に瞼が呼吸を始めた。それに伴い、身体中を痛みが苛んでいく。手の平は針をさしたようにズキズキと痛むし、呼吸するだけでも肺がちくちくと痛む。そのうえ少しでも動こうものならたちまち内蔵がぎしりと悲鳴をあげる。ぎしぎしと軋む身体を持て余していればいきなり「この馬鹿!」と声を掛けられた。燃えるような赤が視界を埋め尽くし、全身を突き刺す痛みにびくりと震えた。
「先輩、いてぇ」
「当たり前だ、どうしてあんな事をした!」
頭の隅でぼんやりといい加減に離せなんて悪態をつきながらあんな事、とやらが何かを考えてみたが全く思い付かない。強いて言うなら上層部からの命令で前線に引きずりだされた事くらいだが同じく前線にいた奴に文句を言われる筋合いは、ない。
「どうして俺を庇ったんだ!」
真直ぐな視線は俺の全てを見透かしそうで気持ちが悪い。
浮かぶのは疑問ばかり。果たしてそんな事をしただろうか、安っぽい仲間ごっこは俺には似合わないしまたするつもりだってない。第一今どうして俺がこれほどの重傷をおっているのかだって分かっていないのだ、何故などと問われても答えなど返せるはずもない。
「クルル、答えろ」
「さぁ、な」
「真面目に答えろ」
「うるせぇ」
軋む身体を無理に動かし、乱暴に頭まで布団を被った。分からない事を聞かれても応えられないし、素直に答えてやるつもりもない。
「クルル!」
先輩が一人で喚き散らす、うるせぇから早く諦めて出て行けばいいのに(俺なんて見捨ててくれれば良いのに)
先輩の怒声を適当に聞き流しながらもう一度考えてみるが、他人を庇うなんて行為はどう考えたって俺には似つかわしくないし、咄嗟に同じ隊の奴を庇うなんて行動ができる程大人でもない。
理屈で固められない感情を無視して深い溜息をつき、眠る事にする。妙に冴え渡った意識とは裏腹に身体は熱を持ち、休息を訴えていた。
先輩の「第一お前は普段から…」、ともう5分以上は続いているであろう長々しい説教を仮にも病人のいる部屋で言い続けるその姿勢には完敗ものだがいい加減出て行けと念じる。口に出せばただでさえ鬱陶しい説教が倍に延びるだけなのは今までの経験から理解済みだ。
仕方なしに音楽のボリュームを最大まであげ、説教をかき消すが何故か不安になりボリュームを下げた。これじゃまるで馬鹿じゃねぇか、と心の中だけで呟き、睡魔に誘われるままに瞼を閉じた。
瞼の裏側は暗かった。




答えは知っていた(知りたくないと蓋をした)















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