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えええ…と眉を八の字にして困惑を示す少年にふふ、と笑いかけて、冷めかけたコーヒーに口をつけた。あ、これ美味しい。さすがセレブハウス。

「じゃあ夏目さん、あの子について教えてよ」
「うーん…?それはルール違反…とか、あんまり思わない?」

正直大したことは覚えていないのだ。

「せめて本人を前にしてじゃないと、話にストップもかけられないでしょう。女の子には秘密があるものよ?」
「じゃあボクのことは?」
「コナンくんのこと?」
「そう、『江戸川コナン』のこと…何を知ってる?」

欠片を拾い逃すまい、とまっすぐに向けられる目と対面する。まるで猛禽のような視線でボク、なんて言われても…ちっともかわいくないよ。
1度そっと目を伏せる。

「江戸川コナンくん、突然このおうちに現れて、家主を探しに来たJKに名乗る…そのままJKの実家に居候することになった、帝丹小学校の一年生。少年探偵団ってお友達がいて…実は、この家の家主。こんなとこ?」
「え、詳しくない?」
「ダイジェストよ。ちなみに工藤新一くんが薬で君の姿になるシーンも見たかな…?ほんとにおこるのね、そんなことね」

そんなこともどんなことも見なくていい…とちょっと恥ずかしげに頭を抱えるぼうやは少しかわいかった。中身は高校生…とはいえ、高校生なんてまだまだ子供だったな、そういえば。

「彼女に、もう名前はついた?」
「彼女?」
「そう、哀ちゃん」

するりとその名を口にした私に、さすがに驚いたらしい。あの子が私に拾われて、博士に預けられてほぼ一日。流出しようのない、“灰原哀”の存在。

「どうかな、信じてくれるかな?」

ちょっと情けなさそうな、不安そうな、同情を引くための顔は昔から得意。生まれつき存在感の薄い眉をちょっと下げて、控えめに口角を上げる。
ちなみにもうひとつの得意な顔は、片眉をきゅ、と上げた皮肉っぽい煽り顔。夢の国の氷の女王によく似てると言われたけれど、あの映画は見なかったな。

「ちょっと信じられないところはあるけど、夏目さんがボクを追いかけてきたわけじゃない、ってことはわかった」
「…まあ、自分で信じられないような話を信じてもらうってのも、ね。よくない疑いは晴れてなによりだわ」

よろしくね、ほどほどに。ダメ押しの一言で和解の握手。

「それで、もちろん博士には会っていくんだよね?」
「…やっぱり?」