3-3


ぺたりと触ったおでこは子供ならではのしっとり、かつさらっとした触感でなんだか少し羨ましくなる。警戒を露わにできる、それは当然元気の証でもあるけれど、本当に熱はないようで安心した。コンビニで買った物はほぼ無駄になったけれど、なによりだ。江戸川くんには後で少しお話があります。

「…なによ」
「いや…うん、はじめまして、夏目です。昨日はきちんと雨避けてあげられなくてごめんね。暖かいおうちとミルクで元気になったみたいでなにより。最低限、届ける場所に届ける"大人"であれたみたいでよかった」

言葉をそのまま借りてきたら、ちょっとばかり嫌味っぽくなってしまったような…こればかりは性格というところで、見逃してほしいが。私比で素直に出したつもりの微笑みはしっかり届いただろうか。虚をつかれた、という顔をしているから大丈夫だろう。
この少女が無事にこの博士のもとにたどり着き、私というイレギュラーを乗り越えてあるべき場所へ収まったことが確認できた。ひとまず、私が少年に捕まっただけの見返りは得た…というところだろう。
灰原哀、という少女が、一人の女の子として、人生を歩き始める。コミックスで、アニメで触れた彼女は少し皮肉げで、どこかもの悲しくて。当時義務教育も終えていなかった私の心を惹いたのを覚えている。工藤新一が存在する世界ならどこかで見かけられたりとかしないかな、なんて思ったことが無いわけじゃない。まさかこんな風に出会うことになるなんて、とても思わなかったけれど。

「杯戸町のデパート、一階の化粧品売り場にだいたいいるから、何か困ったことがあったらなんでも言ってね」
「え…」
「…え…?」

手を取られて驚く彼女はわかる。ごめんねびっくりさせて。でもその奥の眼鏡が非常にもの言いたげだ。

「どうかしたの?」
「…えっ…夏目さん、ボクの時となんか違くない…?」
「えー…」

そりゃあ、私も人ですから。人間的表情は顔に表れてしまうし、嘘がつけないタイプなのは本当なので、好き嫌いで対応が変わるのはよく指摘される。さすがに仕事中はそんなことしないけれど、だって私、煮え切らない男の子とにぶちんな男の子とまわりくどい男の子には昔からいらいらしてならないのだ。
わかる?少女漫画を読んでいて。人気なのはヒロインの気持ちにまるきり気付かない幼馴染みのアイツ、ヒロインに謎かけのような言葉を残して去るクールなあの人、桃子はどっち派と聞かれても私はこの最初からヒロインの事を好きだとまっすぐに伝えてくれるちょっと厳つい彼や浮気性に見える彼の方が何倍も好感が持てるのだと…

わかっている、江戸川コナンは、そして工藤新一は少年漫画のヒーローなので、そういうレンとかアイとか的世界観ではないっていうことも重々承知しているのだけれど、それとこれとは話が別。
蘭ちゃんを応援するし、コナンくんは不屈のヒーローだし、黒の組織だって倒れたと風の噂で聞いたけれど、私は根本的に工藤新一がタイプじゃないのだ。

「えっとね…遊園地に女の子を置き去りにするような男の子に優しくする女性はあんまりいないかなと、思うわ」
「あんたそんなことまで夢に見るのかよ!」

見るんだよ。