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「それで、夏目さんはあの子とどういう関係なの?」
「どういう…と言われましても。あのおじさんには従妹と伝えたはずだけど」

じとっとした目は大変素直だ。当然従妹なんかじゃないことはわかっているんだろう。

「最初は姉妹かも、って思ったけど、違うみたいだし。従妹はいないって本人が言ってるし。でも交番に届けないで、背負ってまでここに連れてきた。もしかしたら近くで拾ってて、博士の家を選んだのは偶然かなとも思ったけど、とっさの事にしてはこの家をきちんと覚えているし、今日の事にも動じなさすぎだよね」

こちらをしっかりと見据えて話を続ける少年の顔はどうしたって小学一年生のそれではないから、坊や。そんなことではいつでも身を滅ぼすよ。そう思いながら、道すがら考えていた言い訳を組み立てていく。まさか数週間前まで米花町がなかったとは言えまい。

「あの子はね、拾ったのよ」
「…拾った?」
「そう。昨日は仕事帰りにお散歩してたの。迷子になってうろうろしてて…そうしたら、前からフラフラと」
「…そう。それで?」
「ぶつかったら、そのまま倒れちゃって。さすがに放置したらまるで通り魔じゃない?」

それはそうだけど、という顔には疑いの色があまりない。実際、ここまでの話に嘘はないから、きっとこの江戸川コナンくんにはうそ発見器が搭載されているんだと思う。
自分自身、嘘が得意な方ではないから、下手に言っても近いうちにばれるだろうことはわかりきっている。
女性は嘘が得意だと俗に言うが、嘘よりごまかすほうがよほどたやすい。そんなものだ。

「じゃあ夏目さん、どうして博士の家のピンポン押したの?」
「どうしてって…偶然とかじゃないの?小さな探偵さんが出てくるなんて、思わないし」

ねぇ?と苦笑いして見せると、えぇ、と目を細められる。さすがにこれ以上は許してくれないらしい。

「だってこの辺、もっと門と玄関の間が近い家がたくさんあるじゃない」
「門と玄関?」
「そう。捨て子同然に押しつけていくなら、玄関出てきてすぐ預けた方が顔もあんまり見られなくてすむよね?…考えもしなかった、って顔だけど」

さすがに名探偵は実在してもきちんと名探偵だった。幸いなのは、現状害がないと判断されているのか、この尋問があくまで“質問”の域であるということだ。さすがにこの状況、真実まではたどり着けまい。
この小さな彼のホームグラウンド。私があの子を拾ったということは、あの漫画史でも今は比較的早い時期…の、はず。例の組織の情報だってまだ、爪先も掴めない程度のはず。

ならば、ほんの少しの嘘で誤魔化しがきくのでは。

「つまり…江戸川少年?」
「コナンでいいよ」
「ありがとう…コナンくんは、私があの家の存在を知っていた…そう考えているってことで、いいのかな?」