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小さい子供を抱えてうずくまったまま鬼の形相で地図を見る私。さぞ不審者だったことだろうが、ご都合主義というかなんというか。人通りの少なそうな住宅街、この雨で中途半端な時間では通りかかる人も車もいなかった。
大通り沿いの交番一通りを頭に入れた私の作戦。
一、とりあえずこの時間でも人がいそうな通りにでる。
二、迷子を装い、そこそこ有名なはずの「工藤さん」のおうちを聞く。
三、工藤さんちのお隣が阿笠邸!さすがにこれは変わらないだろう。変わらないでくれ。
米花町内を歩いていることは確かだし、誰かしら知っているだろう。工藤家といえばよくわからない交流とかありそうな雰囲気だし、なんとかなるって信じてる。あとは私の演技力次第だ。
出来るだけ背後の少女の顔が見えないように背負う。この子は寝てるだけ、年の離れた妹。自分に暗示をかける。さあ、親戚の家を訪ねてきたおのぼりさんになりすますのだ。
「あの、すみません」一人目。まあスルーされるよね。
「すみませ〜ん」二人目。気のよさそうな女性に眉をひそめられると傷つく。
「すみませ、」
三人目、振り返ったその顔に血の気が引いた。
「…先ほどから、道にでも迷われました?」
この大通りで?と微笑むこの金髪褐色のイケメン、知ってる。
(あ、アムロだぁーーーーーーーーーーーーー!!!!!?)
おそらく善意で振り返ってくれたこの青年、私のおぼろげな記憶の中でもわりと鮮明な男である。
つまり、とっさには思い出せないけれど、”ヤバい奴”
でも今逃げたらそれこそ怪しすぎる、なんとか、やりすごさなきゃだめだ。
「え、ええと、」
「はい、どちらまで?」
背中の少女はよく寝ている。大丈夫だ。ばれない、はず。
「実はこの辺りに、工藤さんって大きなおうちがあると思うのですが…迷ってしまって」
「工藤さん…あの、工藤さんのお宅ですか?」
すごい訝しげな顔された。
「親戚の家で、しばらく従妹を預かってもらう話になってるんです…」
お願い、通じろ。
「なるほど…」
まずいかなぁ。まずいよなぁ。
しょっぴかれたら終わりという緊張感と、少女が起きたらアウトという事実、あと迷子になったという設定上の私の羞恥やら何やらで頭がパンクしそうだ。早く知りませんの一言で開放してくれ。
「確か二丁目です」
え。
「このあたり詳しくは僕も存じませんが、次の信号を左に行けばそっち方面だったはず」
え、教えてくれるの。
「仕事があるので案内はできませんが、どうか風邪などひかないでくださいね。それでは」