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必要なのは栄養と体とメンタルに元気をくれる糖分、水分。そう繰り返してラインナップを決める。
そう大きくならなかった袋を下げて再び手をつなぐ。
なんせ隣町とはいえ、つい先日まで”なかった”町で土地勘が無さ過ぎるのだ。自分の方が迷子になりかねない。
無言もちょっと気まずいので、ぼつぼつと会話しながら歩く。今小学生?うん一年生。お姉さんは?お姉さん今27だからぼちぼちお姉さんじゃないかな。おばさんでいいの?おばさんは嫌。
今更ながら、親戚の体を装うのはとっくにやめたらしく、あの印象的なぶりっこも成りをひそめてしまった。あれはあれで嫌いじゃないので、少し残念なような気もする。

「それで、私君の事なんて呼んだらいいかしら」
「それは…名前を聞いてる、ってことでいいんだよね?」

まあ怪しいお姉さん相手だし偽名でもいいよ、って言ってみたら、じゃあお姉さんも怪しい子供相手に偽名でいいから教えて、って。

「いや別に、ばれて死ぬような名前じゃないですし。夏目桃子です。ほどほどに、よろしくお願いします」
「夏目さん。よろしくね、僕江戸川コナン」

あの名乗りを少し期待したけれど聞けなかった。それならタイホされるようなことにはならないかな、とのんきに考える。ほどほどにってどういうこと、と腕を引かれたころには、見覚えのある通りを歩いていた。

「うーんと目的地は、ここかな?」
「いや、今日はこっち。よかった、昨日のお姉さんで間違いないみたいだね」

小さな腕が迷わず大きな門を押し開ける。ビニールの中身どうすんのよ、とおもいつつ、その腕には余るだろう門に手を掛けた。

「アイツは大丈夫、博士がみてくれてるから、熱もすぐ下がるよ。家出る前は、よく寝てたよ?」
「うん、つまり看病役は最初から必要なかったと」
「そうなるね。はい、ようこそいらっしゃい」
「はい、どうもおじゃまします」

勝手知ったるという様子で…そりゃあ、自宅なのだから当然だけれど、奪われたジャケットが掛けられる。
そこ座って待ってて、と伝える言葉にはためらいがない。逃げるとか、欠片も思っていないんだろうか、まあ無駄だし、逃げたりはしないけれど。

手持無沙汰に眺めればこの家、客間まで本だらけ。ソファやカーペットはやや派手気味だけれど、歩いただけで質がわかる。職場の簡易カーペットフロアではなくて、VIP専用の応接ルームでみられるかどうかの雰囲気だ。いかにもセレブ宅、と綺麗に飾られているけど周りの壁棚はカーテンで覆われた本が埋めつくしている。収まらないんだろうなぁ、こんなに広い家でも。確か家主は世界的推理小説家…資料とか、著作もあるんだろう。

「興味があるの?」
「うん?」
「カーテンの奥、気になるみたいだから。多分そのへんは工藤優作ばっかりだと思うけど…」
「そっか、客間ですもんね。でもそうね…ミステリーは実際、あまり読まないかな?」

そ、ざーんねん。ちっともそう思っていない口調で隣に腰かけた少年からマグカップ受取る。