三分五分



 風に追われ、雲の流れが速い。
 桜の指さした木の枝も、西からの風に強くなぶられていた。せっかく芽吹いてきたものが飛ばされてしまいはしないかと、りんねの心もなにやら落ち着かない。
「こういう日は、まだ寒いね」
 ひらひらと今にもめくれそうなスカートの裾をおさえながら、桜は言う。その所作をちらと見たりんねは、あわてて黄泉の羽織を脱いで彼女の肩にかけてやった。
「す、すまん。その、花見には向かない日だったな……」
「ううん。お花見したいって言ったの、私だし。ちょっと風があるけど、せっかくだから少し見ていこうよ」
 楽しそうに笑いながら、羽織の半分にりんねを招き入れる桜。失礼します、と頬を染めながら遠慮がちに入ってくるりんねに、その微笑みはますます和らいだ。
「六道くんが入ってきたら、ちょっと温かくなったよ」
「そ、そうか?」
「うん」
「……」
「……」
「……真宮桜」
 顔を向けてきた桜に、りんねはしばらく水から上がった魚のように口をぱくぱくさせていたが、やがて意を決して、
「その、……手を、握ってもいいか?」
「……わざわざ聞かなくてもいいのに」
 改まって申し入れられるとさすがに気恥ずかしいらしく、遠慮がちに繋がれた手を見下ろす桜の顔には、咲き初めの花の初々しさがただよっていた。
 さざなみのような音をたてて風が木々の間を吹き抜けていく。
 こういう時にかけるべき言葉をりんねはいつも探している。けれどやはり今日も見つからないまま、高鳴る胸の鼓動ばかりが二人のあいだに確かな時をきざんでいた。


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Boule de Neige