約束の場所
待ち合わせ場所はとうに決めていた。しかし本当に待っているとは思わなかったので、犬夜叉は自分の頬をつねって、それが夢かうつつかを確かめなければならなかった。「もう、何やってるのよ。──私のこと、そんなに信じられなかったわけ?」
かごめは心外そうに唇をとがらせている。
「ちゃんと、ここで待ってるって言ったじゃない。私、あんたとの約束を破ったことある?」
「いや、ねえけどよ……」
じりじりと顔を近づけてくる妻の追及にたじろぐ犬夜叉。どうやら夢ではないらしい。それでもおそるおそるその手に触れてみると、不服そうな表情から一転、にこやかな笑顔でしかと握り返してきた。
「──!」
「まだ信じられない? ほら。私、ちゃんとここにいるわよ」
犬夜叉の隣に。
金の瞳が、水面に映る月のようにゆらりと波打つ。
「……どっちが待ってたんだか、わかんねえな。こりゃ」
2022.2.19