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女主/アーロン:FF10





 私は死人という存在を正しく理解していないと改めて思う。
 死してなお現世に留まっている人。どうしても動く死体のようなものを連想してしまうのだけれども。
「もうすっかり騙されたって感じだわ」
「……人聞きの悪いことを言うな。俺は騙してなどいない」
 辛そうに咳をしつつアーロンは顔をしかめた。
 死んでるのに生きてる人みたいに風邪なんか引くんだもの。やっぱり本当は、まだ生きてるんじゃないかと疑いたくなる。
「おい、あまり近寄るな。風邪がうつるぞ」
「余計な心配しなくてよろしい」
 風邪なんかうつるものか。私はもっと悪質な病に取り憑かれているのだから。
 濡れタオルを額に叩きつけてやったら頭に響いたようでアーロンは低く呻いた。
「お前は……、病人に対する優しさの欠片もないのか……っ」
「いいじゃない。熱に苦しむのも頭が痛むのも、生きてるからこそでしょう」
「何の慰めにもならん……」
「べつにずっと寝込んでてもいいから、間違っても私より先に逝かないでよね」
 そんなことになったら私は悲しすぎて涙も出ない。そう言ったらアーロンは妙な顔をしてため息を吐いた。
「……既に死んでいる相手に向かって、先に逝くな、か。無茶を言うな」
 そう……そうだった。ああやっぱり私は死人という存在を正しく理解できてない。
 あるいは自分が半死半生だから生死の境なんてどうだっていいのかもしれない。
 私はただ私が死ぬその日までアーロンにもここに留まっていてほしいだけなんだ。




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