うちにおいでよ



 時間を見計らって一人家を出た。肌寒さに身震いしつつ、マフラーに顔を埋める。道は人通りが少なく、普段のような賑わいは消えていた。目指すは稲荷神社。初詣をして、おみくじを引いて、御守りを手に入れるのだ。参拝客がほとんどいない稲荷神社は、厳かな雰囲気だった。タイミングの良さにマスクの下でひっそりと笑みを浮かべる。さっさと用事を済ませよう。拝殿に向かって歩き出すと、背中に声がかかった。
「なんや。こんなとこで会うとはなあ」
「北くん? あけましておめでとう。北くんも初詣?」
「あけましておめでとう。おん。俺だけな。ほら、人ごみ多いとこに、あんまり祖母ちゃん連れてきとうないし」
「そうだよね、今年はねえ」
「せっかくだから、一緒に行かん?」
 信介は拝殿を見やりながら提案してくる。まさかこんなところで会えるだなんて。感動していた矢先に、お誘いを受けてしまった。首を縦に振ると、にっこりと信介は笑って歩き出した。
「そういえば、北くんの家は、毎年おせち食べるの?」
「うん? せやな、祖母ちゃんがいつも張り切って作る」
「いいなあ。私、おせちって食べたことない」
 賽銭箱の前に到着すると、信介は目を丸くした。次の瞬間、彼はとんでもない爆弾を仕掛けてくる。
「ほんま? じゃあ、この後、家に来るか?」
「へっ」
「おせち、食べにこん?」
「えっ!? あ、でも……!」
 しどろもどろになっていると、信介は笑いながら賽銭箱に小銭を入れた。慌てて賽銭を投げ入れる。
「お参り終わったら、返事聞かせてな」
 信介の言葉に、お願いする内容を忘れてしまった。




short 望楼