久しぶり



 出会ったのは数年前。妖怪から襲われそうになったところを、如意棒を持つ少年に助けられたのがきっかけ。お礼にご飯をごちそうすると営んでいる宿屋を紹介したのだ。三蔵法師一行は、定期的にこの町を訪れ、そのたびにこの宿屋に泊まりに来てくれた。
「あけましておめでとう!」
 朝食の席についた悟空は、いつもと違っていた。普段ならば挨拶も早々にご飯を食べ始める。新年の挨拶をしてくれた悟空は、出会った当初よりも大人びていて、いくらか声も低くなっていた。
「あけましておめでとう。今年もよろしくね」
「よろしく! 昨年はお世話になりました! じゃあ早速、いただきます!」
 悟空は、美味い美味いとニコニコしながら食べ進める。悟空に美味しいと言ってほしいために、料理の腕を磨いたのだ。自然と頬は緩んでしまう。
「八戒の飯は上手いけど、アンタの飯の方がもっと美味いし、毎日食べたくなる!」
「えっ」
「俺さ、俺さ、年越しどこでするかって八戒に訊かれた時、一番にこの町にしてって頼んだんだ!」
「えっ、えっ」
「だってさ、この町には、アンタがいる」
「ほわ……」
「飯食いたいのも本当だけど、なにより、俺、アンタに会いたかったんだ」
 口の周りに食べかすをたくさんつけながら、悟空は口説き文句を紡ぐ。腕に乗せたトレーの上のお冷が、ガチャンと音を立てて床に落ちていった。




short 望楼