綺麗だな



 海辺で朝焼けを見るのは二回目だった。闇夜から一筋の光が差し、世界を包み込み、光はゆっくりと朝を迎えにいった。なまえはカメラを構える。初日の出の眩しさに目を瞬かせながら、シャッターを切った。
「綺麗だな」
 隣で同じようにシャッターを切る臣が呟く。返事をしようと臣を見上げると、カメラを構える先がどうもおかしい。
「えっ……なんでこっち撮ってるの」
「えっ? 撮っちゃダメだったか?」
「初日の出、撮りに行こうって話だったのに!」
 臣は悪びれもせず、きょとんと首を傾げている。そんな反応されてしまっては、自分だけ意識しているみたいだ。なまえの頬は火照り始める。
「あ、シャッターチャンス」
「えっ、あっ、もう! 撮らないで! 撮るなら海!」
 なまえは初日の出そっちのけで、臣を止めようと手を伸ばす。臣は長い足で軽やかなステップを踏んで逃げ回った。海辺は二人だけのダンスパーティーの会場に早変わりする。
「ははっ。やっぱり、なまえは綺麗だな」
「〜〜! もう! 臣くんのんばか!」
 臣はなまえから逃げつつも、データをチェックしながら幸せそうに微笑む。とうとうなまえの叫び声が、海辺にこだました。




short 望楼