いつかの約束



 忘れられない男の子がいる。
 彼と過ごした日々は長いようで短かった。それでも、これまでの人生において、彼と過ごした日々は、いつまでも色褪せることがない。温かな思い出で、大切に宝箱に仕舞っている。
 突然やってきて、突然消えてしまった白い男の子。髪も肌も白く、心も清らかな色をしていた彼は、夜空が似合う人だった。暗闇の中、月明かりに照らされた白色が、この世に溢れるどの宝石よりも美しいものだと、初めて見た瞬間に悟った。
 闇を背負うには優しすぎる美しい彼の成長した姿に、思いを馳せたことは、一度や二度ではない。美少年から、美青年へと変貌を遂げた彼を想像しては、小さく胸が高鳴った。
――叶うならば、もう一度。我儘は言わないから。一度だけでいい。会いたい。
 流れもしない星に、叶わない願いを込めて、ベッドの前に座り込み、お祈りのように手を握って瞳を閉じる。
 開かれた窓からしっとりとした風が舞い込んで、肌の上を撫でていった。
 風の音、カーテンが揺れる音、遠くで鳴り響く電車の音、心拍の鼓動。聞こえてくる音は数えられる程度で、世界が寝静まっていることを証明していた。
――叶うわけ、ないか。
 小さくため息をついた瞬間、シャラン、と金属が零れるような音が響いた。次いで、墨と焚いた香、そして潮の匂いが鼻腔をくすぐる。
「――御機嫌よう、#name3#さん。今夜は、月が綺麗ですね」 
 落ち着いた声が降り注ぐ。初めて聞く声だった。けれど、私はこの声を知っている。聞いたことはないけれど、誰の声なのか、思い当たる人が、一人だけいる。
「貴女を、攫いに来ました」
 瞼を上げた先には、窓のサッシに足を掛けて座り、こちらを覗き込む気高い白色。その色を認めた瞬間、喉の奥が震えた。
 それは、なまえがずっと想いを馳せていた、ジャーファルだった。

23,11.13




short 望楼