おぼろげにあたしは過去を思い出す。
忌々しい能力と向き合うよう導いてくれた彼の事を。
あたしには触れた人の考えが読める能力がある。
世間一般には超能力と呼ばれるものだ。
それを自覚したのはおよそ4年前。
当時、14歳だった雛菱龍樹はいじめにあって居た親友を庇った。
正義感が強い方だった私はいい事をしたと自己満足に酔っていた。
そして、彼女は笑顔で「ありがとう龍樹ちゃん。」と言ってくれるのだ。
立たせようとその親友に触れた瞬間、私は困惑した。


『なんで私なんかを庇ったの?』
『どうせ、なんでもできる龍樹ちゃんだから優位に立ちたいんだ。』
『龍樹ちゃんって男の子の気が引きたいんだ。』
『先生だって龍樹ちゃんに騙されてるんだよ。』


そんな考えがあたしの頭の中に雪崩れ込んでくる。
「どうしたの龍樹ちゃん?」
親友の心配した顔が信じられない。
そう嫌な考えが頭をよぎる。
取り作るように何でもないと精一杯の笑みを取り繕った。
だが、ちゃんと笑えているだろうか?
その後、妹に触れてみたり、両親に触れてわかった事がある。
これは人の思考だと。
だが、そのショック以来家族以外の他人に触れる事が怖くなった。
いわゆる疑心暗鬼だ。
得体の知れない他人とクラスという集団の中で過ごす日々。
私は誰かに触れられるたび、怯えていた。
また、裏切られていたらどうしよう。
悪意を向けられたらどう対処しようと。
小心者だったから他人を避ける事でそれを回避した。
だが、ある時、親友だった彼女に呼び出された。
それは彼女の好きな男子が私を好きだと言ったので協力してくれないかという事だった。
あたしはろくに友達もおらずその親友のためならなんでもする。
そう、愚かしくも思っていた。
彼女と約束を交わして一ヶ月がたった。
その一ヶ月のうちに彼の気を親友に向けさせようと必死にアプローチをかける。
だが、全て失敗に終わり再び呼び出された。
触れずともわかる、彼女はあたしを軽蔑の眼差しを向ける。
「ねぇ、龍樹ちゃん。
私達、親友だよね?約束したよね?」
「…う、うん。」
あたしの努力も虚しく、親友の愛しの彼は別の人を好きになり結局のところ振られた。
その事を八つ当たり気味に責められる。
今、冷静に思えば他力本願な彼女にも非があったと言えるだろう。


だが、そのいばり散らしていた彼女に不幸が降って襲う。
それは突然に空が暗くなり、巨大な白い芋虫のような怪物が町中を闊歩する。
「助けてー!」
「痛いよぉ、苦し…。」
「逃げろぉぉぉぉ!」
声にもならない悲鳴や大人達の怒号。
瓦礫に埋まった人達のうめき声。
そして目の前で瓦礫に押しつぶされて虫の息な親友否、私の大嫌いな人。
「助け…て、痛いよ…ねぇ、龍樹ちゃん。」
そんな事を言いながら血まみれの手を伸ばしてくる彼女。
その姿を見て助けようとするバカなあたし。
もう既に心は嫌いに傾ききっているというのに。
だが、それを認められずたった一人の親友を救おうとする偽善者。
彼女を失えば友達が一人もいなくなるのだ。
それだけは避けたいと無我夢中で言いなりになった。
わけもわからず。
「まって、まって、今助けるから…。」
荒い呼吸を整えながら瓦礫を出来るだけどかす。
だが、中学生の非力な筋力では大きな瓦礫はろくにどかせない。
あれよあれよと言う間に彼女の体はどんどんと冷たくなっていく。
「ねぇ、聞こえる?!
返事してよ!ねぇ!」
どんどん状況は悪化していく。
さらに運のツキのように今度はさっきの化け物より大型なものが私の目の前まで来た!
「ヒッ…こ、こないで!」
恐怖に足がすくみ尻餅をつく。
嗚呼、ここで私は死ぬんだ。
隣で瓦礫に押しつぶされた少女のように。
「母さん、父さん、露乃、ごめん。」
そう、最後の言葉を呟き、死を覚悟したその時だった。
黄色い閃光が化け物を貫き動きが縫いとめられる。
その化け物の上に乗った同い年くらいの少年が笑いかける。
「大丈夫か?」
荒い呼吸の中、胸を押さえて状況が飲み込めないあたし。
彼は怪物からひらりと降りてあたしに手を差し伸べる。
「ここは危険だから、立てるか?」
「あ、ありがとう。さよなら。」
その手を取らず震える足で立ち上がるとお礼を言って逃げる。
助けた人に対して失礼な行為をしてしまった。
だが私が触れてしまってまた余計な考えを読み取って後悔するよりはマシだ。
人の醜い考えや欲望を見るよりも今は家族や妹が心配だ。
無理に走ったせいか息切れして膝をつく。
「はぁ、はぁ、ここまで来れば大丈夫…なはず。」
市の境近くに我が家は立っている。
さっきの化け物は市内中心部に出没しているってSNSのニュースでもやっていた。
急いで家に入ると家族勢員がリビングに集まっていた。
「龍樹、おかえりなさい。」
「おねーちゃんおかえりー。」
「ただいま。母さん、父さん…街が大変!」
混乱する私もよそに父と母はゆっくりと抱きしめる。

『この子を落ち着かせないと。』
『龍樹と露乃だけでも安全なところへ。』

二人から心配や憤り、恐怖が伝わってくる。
とてもじゃないがさっき襲われかけた事は言えなかった。
私の呼吸が落ち着いたところで母は目線を下げて私にいう。
「いい、龍樹、露乃。
おじいちゃんところへ行くよ。
大丈夫、大丈夫、何にも怖い事はないのよ。」
まるで母は自身に言い聞かせるように私達の背をさすりながら言う。
小学生の妹は泣きそうに顔を歪めて必死にこらえてる。
今でも町の外では叫び声や倒壊音が響いてる。
怖がるのも無理もない。
だが、家の中にいても安全じゃないことくらいわかる。
あたしは間近で『ソレ』を見てしまったのだから。
それからと言うものの雛菱家は三門市を出て半年間、蓮乃辺市で生活をしていた。
妹に男友達ができたり環境もそれなりに変わった。
だが、私は時々、悪夢にうなされる。
裏切った親友を見殺しにしたあの日の夢を。
話して仕舞えば楽になるかもしれない。
だが、自分の能力を説明することができない。
悶々と中学生生活を過ごし、高校生になった。
私が高校へ上がる頃、元の三門市へ舞い戻る事になった。
私は特に友達を作ることなく2輪の免許を取り一人でいることも多くなった。
だが、バイクを買えば当然、燃料費や整備費がかかるわけで
人と関わりを極力持ちたくない私にとってアルバイトは最大の難関だった。
「…何かいい手はないのか。」
昇降口の求人募集の張り紙をぼんやりと見る。
ふと、ボーダー隊員募集というデカデカと書かれたチラシに目が行く。
半年前からネイバーという化け物を狩る組織ができたらしい。
人と関わらないのならなんでもいい。
そう思い、家族に入隊のことを相談した。
「ダメよ、龍樹もしものことがあったらどうするの?」
「そうだぞ、龍樹、女の子が怪我でもしたらどうするんだ!」
と二人とも猛反対だった。
仕方なしにダメ元で私の能力を役に立てたいという方針に変える。
「母さん、父さん。
実はね、薄々気づいてると思うけどあたし、触れた人の考えがわかるの。」
涙ながらに告白すると二人は顔を見合わせて微笑む。
「大丈夫だ龍樹、むしろ人の考えを汲み取れるなんて素晴らしいことじゃないか、なぁ、母さん。」
父さんが誇らしげにいうと母さんも微笑む。
「ええ、そうよ。
何があっても龍樹も露乃も私たちの可愛い娘よ。」
「ありがとう、父さん、母さん。
でも、この能力を理解して欲しい訳じゃないの。
この能力でここの人達を守りたいの。」
本当は単なる私利私欲の為。
真っ直ぐ二人を見つめたら折れたのかため息をついて答えた。
「こうも意思が硬いと反対している私たちが悪者のようじゃないか。」
「フフッ、頑固なところは貴方そっくりね。
いいわ、但し約束して。」
「なあに?母さん。」
「仕事が忙しくなっても必ず帰ってくること。
それが私からの約束よ。」
「じゃあ、父さんからはどんな些細なことでもこうして話してくれること、約束できるかい龍樹?」
嗚呼、どこまでもあたしの母さんと父さんは優しくて温かい人達だ。
たとえ私のエゴで危険なことをしても叱ってくれるだろう。
だからあたしは両親も妹も裏切れない。
「うん、危ないことはしないつもり。
だから心配しないで。
私は精一杯、頑張るから。」
「そう…やるからには頑張りなさい。」
背中を押され、私はボーダー隊員の試験を受けた。
邪な思いを抱えたまま、偽善者の自分を払拭したくて。
結果は無事合格。
明日からC級隊員としての生活が始まる。

その頃、玉狛支部ではサングラスをかけた男がニヤリと笑う。
「一年と半年、漸く入ってくるのか。」
まるで、この出会いが運命付けられて居たかのように彼は楽しみだと呟く。

To be continue…



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