ここは東京都のどこかにあるキメツ町。
今日も街は活気に溢れて賑やか。
「はぁ、決まらないなぁ。」
公園で缶コーヒー片手に落ち込んでいるのはキメツ学園のOBである鶴岡紅梅。
彼女は地元を離れて大学に進学したが就職活動に失敗し、出戻ってきたのである。
「先生の指導通りに髪も黒染めしてカラコンもしたのになぁ。」
彼女は生まれつき白髪、赤目であり、恩師である冨岡先生の高校での指導を思い出し就活に励んでいたのだ。
だが、結果はどこも地毛が白髪だとバレる度に惨敗。
変わった髪色の多いキメツ町に戻ってきた訳である。
「やっぱり私はこんな髪色だから…。」
うじうじと悩んでいると人影が彼女を包む。
「何を落ち込んでいる。」
顔を挙げると涼しい顔をした今一番会いたくない人。
「…せん、せい。」
「こんな時間に女一人でうろつくな。
帰るぞ。」
肩を掴まれ立たされる。
「…ごめんなさい。」
「…なぜ謝る必要がある?」
「…先生のアドバイス無駄になりました。」
「そうか。」
二人して気まずい空気の中家路に着く。
紅梅と冨岡の家は丁度、向かい同士なのだ。
「送ってくれてありがとうございます。おやすみなさい。」
相談できず、そそくさと家の門を潜ろうとすると再び腕を掴まれ不安げに見上げる。
「まて、何か悩みがあるんじゃないか?」
「だ、大丈夫ですよ。私一人でなんとかなります。」
無理に笑ってみせると余計に眉を潜められる。
「兎に角、来い。」
手を引かれ、半ば同意と無理やりの狭間で揺れ動きながらも彼の家へと入る。
「お、お邪魔します。
冨岡先生、お姉さんは?」
彼は二人暮らしで姉がいたはずだと記憶を呼び覚ましていうと。
「結婚して両親と同居している。
今は俺一人だ。」
「そ、そうなんですね。」
そろりそろりと家の廊下を歩くと荒らされたように部屋が汚い。
それに何か埃っぽい匂いまでする。
「せ、先生。」
「何だ?」
「失礼ですがお家何かあったのですか?」
我慢ならず、紅梅が聞けば俯きボソボソと何かを言う。
「…できない。」
「はい?」
「炊事も洗濯もできていない。
それにここには寝に帰るだけだ。」
開き直ったように言うので頭を抱える。
まさか憧れていた先生があの、鬼教師と言われてた先生がこんなにもだらしない人だっただなんて!
とショックを受けていると物を退かし、座椅子を用意する冨岡先生。
「座れ。」
「えーっとその…。」
「いいから座れ。」
ポフポフと座椅子を叩く先生は可愛いなぁとぼんやりと考えるが言葉の圧が怖い。
大人しく座るとお茶を差し出される。
お酒でなくてよかったと安心してると無言の話せと言う圧がかかる。
渋々、訳を話すと冨岡先生はやや乱雑に紅梅の頭を撫で始めた。
「よく頑張った。」
「せ、先生!」
この人が褒めるのは滅多にないというか高校時代の嫌な思い出が今でも呼び起こされるくらいトラウマなのだが。
今はこの優しさに甘えたいのだ。
わあわあと泣けばそっと背中をさすられる。
少し落ち着いた後、冨岡先生は何処かへ電話をかけて泊まって行けという。
「高校の時は外泊禁止ではなかったのですか?」
校則をそういえば彼は開き直ったかのようにはぐらかす。
「お前ももう大人だろ。」
「そうでした。
あ、お手伝いします。」
布団を出すと言って席を立つ彼の後を着いていく。
和室に通されて共に布団を取り出す。
こうしていると林間学校を思い出して頬が緩む。
「漸く、落ち着いたようだな。」
紅梅の顔を見て安心する先生。
照れ隠しにシャワー借りますと紅梅は背を向けて襖を開いて脱衣所へ向かう。
*
身支度を終えて冨岡先生のお姉さんの部屋着を貸してもらい布団に座る。
「鶴岡、うまく行ってないんだろう?」
図星を突かれて目を丸くする紅梅。
「な、何でそんな事を…。」
「お前の姉さんや夜月が心配していた。」
「…そう、ですか。」
押し黙れば頬を摘まれる。
「にゃ、にゃにふるんですか?!」
言いにくそうに口を開けば手を離される。
「柔らかいな。」
「痛いですよ。」
「安心しろ、お前がこの書類にサインするだけで生活は愚か両親も安心させることができる。」
ピラっと紙一枚とペンを枕元に置く冨岡先生。
「ほ、本当ですか?!
…ってこれ。」
紙を見つめてワナワナと震える紅梅。
そうその紙は…。
「婚姻届じゃないですか!」
大声で言えば耳を塞ぎ、訝しげに睨まれる。
「近所迷惑だ。
返事は明日聞く、早く寝ろ。」
寝られる訳がないと叫びたいモヤモヤが胸を突く。
だが疲れに負けて目を閉じた瞬間、眠りについてしまった。
【つづく】
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