残りの数十秒、微々たる点数を稼ぐ。
タイムアップというプレゼントマイクの声で皆、動きを止めた。
「あーあ、これじゃ上位にはいけないか。」
つまらなさそうにこもるは足を掴んでた手を離す。
ぐらりと視界が揺らぎ、とっさに受け身をとる。
危ないじゃないかと叱る気にもなれない。
 
 *
 
 障害物競走が終わり、お昼休憩になった。
雫は控え室に忘れ物を撮りに行き、スタジアムから出ようとしたその時、緑谷と轟が控え室廊下で話しているのを見かけた。
咄嗟に身を潜めると向かい側に爆豪の姿が。
お互いに聞くつもりはなかったがここで騒いでも得策はないと黙って聞く。
それは緑谷がオールマイトと何かしらの繋がりに気がついたことと轟自身の過去だった。
雫はその事に手を固く握る。
一番近くで彼のことを知りながら無力な子供だった事に。
話を聞いてもなお、緑谷は黙っている。
「言えねぇならいい。
お前がオールマイトのなんであろうと俺は右だけでお前の上に行く。
時間とらせたな。」
去ろうとする彼に緑谷は意を決して言う。
「僕は…ずっと助けられてきた。
さっきだってそうだ…僕は
誰かに助けられてここにいる。」
愕然とした態度で彼は宣言を続け言い放った。
「僕も君に勝つ!」
その決意を聞き遂げて雫はそっと立ち去ろうとするが爆豪に呼び止められる。
「オイ、泡女。」
「何かな。」
振り返ると威嚇とも取れるようなイラついた爆豪が睨んでいる。
怯まず雫は真っ直ぐ彼を見つめ返す。
「てめぇは半分野郎のこと知ってたのかよ。」
「知ってたよ。
轟君が期待されてた事もお父さんが厳しいって事も。
それで、爆豪君は何が聞きたいのかな?」
「フン、聞きてぇことなんてなんもねーよ。
テメーもデクも半分野郎もぶっ殺して上へ上がってやる。」
爆豪らしい返答に苦笑いを溢し、雫の杞憂は幾らか晴れた。
「その言葉、受け取ったからにはもう負けられないな。
じゃあね。」
ひらひらと手を振って雫は食堂へと向かうのであった。
 
 *
 
 午後から、峰田君の言伝でチアリーリングを急遽やることとなった私達。
「ね、ねぇ、これ恥ずかしくない?」
響香ちゃんがスカートの裾をいじりながら話しかけてきた。
「大丈夫、似合ってるよ!」
羞恥を感じつつ、グラウンドへ出ると。
『どーしたA組?!』
場違いであることを感じ取り、騙した峰田に避難が集まった。

 リザルトが放送される中、不正申告があった為に次点で点数の高かった雫たちのチームから二人選出されることとなった。
「きょーみないにゃ。」
「僕も遠慮します。」
 癒月と猫柳は棄権し、こもると雫は顔を見合わせる。
「そこの貴方達、棄権するの?それとも受けるの?」
「も、もちろん受けます!」
「断る理由がないね。」
 特別枠で入ることとなり二人は互いに見つめあって密かに闘志を燃やす。

一回戦の緑谷vs心操は中々白熱したものだった。
次は私の番だと雫は意気込んで廊下を走り回る。
『お次はぁー!
浜辺の優等生!ヒーロー科A組水無月雫!
バーサス。
ドライアイスの問題児ヒーロー科B組冬羽こもる!
レディイイィスタート!』
 
 合図とともに二人同時に個性を発動させる。
こもるは冷気でスモークを作り雫は手をこすり合わせてシャボン玉を飛ばす。
二人とも先に視界を奪うことを考えていたようだ。
(冬羽さんの方が早いか。でも!)
雫の泡は身を隠すためのものじゃない。
裏手に一つだけビー玉サイズの泡を親指にくっつける。
「せや!」
ドライアイスの剣を振りかぶり、こもるが突っ込んでくる。
(ここ!)
 泡のついた手でこもるの手を握る。
「なっ、手が滑る?!」
そう、これこそが彼女の真骨頂。
相手の手を油性にし、個性の発動を阻止する。
「ちぃ!
だけど手を塞いだくらいでボクを封じたと思うな!」
 
 頭突き。
それはこもるなりの意地だった。

 冬羽こもるには負けられない理由がある。
彼女の家は一般人より少し裕福な家庭だった。
医者の家で個性も技巧系の優秀で頭の良い兄、それを可愛がる両親。
自分には何もなかった。
個性も両親から受け継いでいなく、頭もあまり良くない。
気分屋で気乗りしない時は全く良い結果を得られなかった。
このまま普通に就職して、それなりに生きていけば十分だ。
 そう思っていた中学の頃までは。
「な、なあ、さっきの体育で見せてたブワーって煙のやつ、お前の個性なのか?」
黒髪の少年が話しかけてくる。
「そうだけど何?」
つまらなそうに返せばすっごいな!と笑いかけてくる。
「ヒーローに向いてるんじゃねーの?」
「無理。
兄さんの方が優秀だし、ボクの個性はドライアイスの煙を出すだけ。
制御も時々効かない。
厄介でしかない。」
吐き捨てて、手を振り払う。
だが、彼は気まずそうに頬をかいて言った。
「それでも俺、お前の個性、すごいと思ったけどな!」
自信持てよと背を叩かれる。
 その一言で彼女の世界は一変した。
 
 *
 
 頭が痛いでも意識はある。
足はまだ動く!
回し蹴りの要領で足を振り上げかかとに氷柱を作る。
「無駄だよ!」
足首を掴もうとするが勢いは止まらず、肩に突き刺さる。
「バイバイ良い子ちゃん!」
刺さった足を軸に頭を蹴り飛ばそうとするこもる。
だが雫はそれをまっていた。
「悪いけどそれをまってたよ!」
痛みに耐えながら振り上がった足を掴み逆に地面へ組み敷く。
 だが、それだけで大人しく負けを認めるこもるではない。
地面に付いた手でドライアイスの塊を出し、投げつける。
避けた反動で力が緩む。
丁度、靄が晴れて実況が再開される。
『モヤで見えなかったが二人とも健在!
イレイザー、教え子が頑張ってる姿はどうよ?』
『どちらが勝っても贔屓はしない、それだけだ。』
相澤の言い草にマイクはシビィーと返す。
そんなやりとりを等の二人は気にも留めず戦い続ける。
「そろそろ肩の傷が痛むんじゃない?」
「…かんけいない!」
雫は痛みに耐えながら次々と出てくる氷柱の弾を避けて距離を詰める。
(冬羽さんは轟君と個性が近いでも、そんなに量や大技を出せないみたい。
もしかして力をセーブしてる?)
よくよく考えると幼馴染の様に巨大であたり一帯を変えてしまう様な個性ではない。
余裕のない笑み、額に浮かぶ汗、荒い呼吸。
スモークを晴らしたのも彼女の個性の制御下なら。
雫はある仮説を立て、己の個性を出す機会を伺う。
 この作戦は一か八か、下手をしたら己が負けるかもしれない。
そんな無謀な作戦に雫は身を投じる!
【To be continued】
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