大袈裟に足を固定し、吊るされベッドの上。
トリオン体があるから大丈夫とあたしは言ったのに捻挫を舐めるんじゃないと言われ大人しく寝ている。
特にする事もなくぼうっとしていると病室の戸が開かれた。
「馬鹿じゃないの!」
開口一番、桐絵の怒鳴り声が響いた。
平気だと口を開こうとすると彼女に抱きしめられる。
まあまあと宥める京介と困った顔のレイジさん。
「今回は小南先輩と同意見です。」
「全くだ。
無茶をするなって迅に言われてたんじゃないのか?」
わあわあと泣いてる桐絵をあやしながら二人のお小言に耳を貸す。
「…ごもっともです。」
「ごもっともって何よ!ちっとも反省してないくせにぃ〜!」
「いひゃい、いひゃい。」
ほっぺを摘まれるが不思議と悪い気はしない。
今までこんな感情は抱いたことはなかった。
じゃれあいの最中、思い出した様に私は問いかける。
「そういえば三雲君たちは?」
後輩たちの様子を聞いた瞬間、三人の顔色が曇る。
「それについては俺から説明する。
小南、京介、レイジさん悪いけど席を外してくれないかな?」
いつの間にか病室の壁にもたれ立っている今一番会いたくない人。
顔は穏やかだがそれが余計に怖い。
サイドエフェクトを使わずともわかる。
彼が怒っている事を。
三人が出ていき静かになった病室。
迅先輩は目を細めてベッド脇に座る。
「龍樹、言いたいことはわかるよね?」
「…約束、守れなくてごめんなさい。」
素直に認めるとそっと頭を撫でられ、目を見開く。
「破ると思ってたけど無事でよかった。
お帰り、龍樹。」
「た、ただいま戻りました。」
やけに優しい彼の感情が流れてきてむず痒い。
こういう時、私のサイドエフェクトは非常に厄介だ。
普段は無茶をしたら褒めないくせにどうしてこういう時だけ。
そう悪態を突こうと顔を上げると急に真剣な顔に戻る。
「千佳ちゃんや遊真、それに妹ちゃん達は無事だけど三雲君は…なんとかつなぎ止めたって感じ。」
その話を聞いてあたしは絶句する。
私が敵にかまけたから彼がそんな目にあったのでは。
自責の念に駆られ頭を抱えると頬に手を添えられる。
「顔を上げて龍樹。
これは誰が悪いとかの話じゃない。
メガネ君の選択とみんなの選択は間違いじゃなかった。」
「でも…。」
「大丈夫、メガネ君が目を覚ます未来は見えてる。
それに俺が死ぬ様な未来を歩ませるわけないって知ってるでしょ。」
その言葉にホッと胸を撫で下ろす。
「…良かった。」
その言葉に迅先輩の眉がピクリと動く。
「良かった?
こんなにボロボロになって皆んなを困らせて、俺を心配させて。」
静かに怒りを含んだ言葉。
確かに無茶をしたかもしれない。
反省はしている。
「ごめんなさい。」
反省の意味を込めて謝罪する。
すると頬をするりと撫でられる。
「…もう今後、無茶はしないって約束できる?
お願いだから、俺からもう誰かを奪うみたいな事は経験したくないんだ。」
彼の青い瞳が不安と執着の色が物語っていた。
「わかりました。
もう無茶はしません。
大丈夫、あたしはそう簡単に消えるようなヤワな奴じゃないって知ってますよね。」
広角が上がる感覚を覚え、自分の頬を撫でる。
嗚呼、やっと自然に笑えた。
そう思えた瞬間、そっと抱きしめられる。
「やっと笑った。
可愛い、龍樹。」
それは愛しみを込めた声色。
苦しいですと言っても抱きしめる力を弱めない彼。
その肩は震えていた。
その体制は病室に検温をしにきた看護師が来るまで続いた。
*
一方その頃、トリオンキューブから人間に戻された千佳と露乃。
三雲修が重傷を負ったことを聞かされ二人して病室を訪ねる。
「失礼します。」
「あら、千佳ちゃんと露乃ちゃんじゃない。」
彼の母、香澄さんがベッドサイドの椅子に座っている。
「…修君のお見舞いに来ました。」
露乃が暗い顔で口を開く。
すると香澄さんはつかつかと近寄り肩を叩く。
「顔を上げなさい。
あの子の選択を間違いじゃないと思うなら目を覚ますまで信じてあげて、露乃ちゃん、千佳ちゃん。」
「わかりました。」
「ごめんなさい。
そうですよね、三雲君の選択はきっと間違ってなかったんですよね。
ありがとうございました。」
香澄さんの言葉に露乃はハッとして顔を上げ謝罪を述べる。
わかればよろしいと香澄さんは二人の頭を撫でる。
今日はもう遅いからと退出させられる。
「千佳ちゃん、私、お姉ちゃんの所へ行くからまたね。」
「うん、またね露乃ちゃん。」
別れを告げ、龍樹の病室へ向かう。
「失礼します。」
病室の扉を開くと抱き合っている迅さんと姉さんがいた。
二人は気まずそうに視線を逸らして名残惜しそうに離れる。
「…なんかごめん。」
居た堪れず私が謝ると迅さんが気を利かせて出ていこうとする。
「あー俺が見落としていたし、姉妹でごゆっくり。」
「待ってください。
私、姉さんに謝りに来ただけですから。」
迅さんを呼び止めると彼は罰が悪そうに振り返る。
「知ってる。
だからこそ二人で話合いなよ。」
そう言って彼は出て行った。
気まずい空気の中、姉さんが口を開く。
「ごめん、露乃。
貴女の気持ちも考えずに考えを押し付けたりして。」
目を伏せていう潮らしい姉になんかくすぐったくて喧嘩してたこともどうでも良くなった。
「こっちこそごめん。
無茶して何にもできなくて悔しかった。」
千佳ちゃんを守れなかったこと。
三雲っちが大怪我したこと。
自分のせいじゃないとわかっていながらも何もできなかったという後悔から涙が出てくる。
「…うん。
あたし達、まだまだだね。」
その夜は病室で迎えが来るまで抱き合って泣いた。
また、歩き出すための弱さの共有だった。
*
一週間後、三雲の意識が戻り、宇佐美に報告を受けた後。
彼の病室に露乃が訪ねてくる。
「み、三雲っち…良かった。良かったよぉ。」
泣きながら彼に抱きつき抱きしめる露乃。
「いてて、雛菱も元気そうで何より。」
「ご、ごめん。」
パッと離れる彼女に少し寂しさを覚えつつ彼は口を開く。
「何か用があってきたんじゃないのか?」
「…うん、でも三雲君の顔を見たら今じゃなくていいかなって。」
もじもじと赤くなる露乃に首を傾げる。
「言いたいことがあれば言えばいいじゃないか。」
「う、うん、じゃあ言わせてもらうけど本当に本当に三雲っちのこと心配したんだからね!
見てよこのクマ!
心配しすぎて夜しか眠れなかったんだから!」
「…夜しか眠れないのは正常だと思う。
わからないけどとりあえずごめん?」
訳もわからず謝る三雲を他所に憤りを感じてうんうんと唸る露乃。
「ちっがーう!誤って欲しいんじゃなくてその…ああもう!」
「落ち着け雛菱、後ここは病室だ。」
「わかってるよ。
じゃあこれで勘弁してあげる。」
そう言って彼女は手術着の襟元を握りグッと顔を寄せる。
そして彼の唇に触れるだけのキスを送る。
「その意味は自分で考えてね修君。」
目を白黒させてるうちに露乃は笑って病室を出る。
「…何だったんだ。」
なけなしの彼女の勇気が報われる日は来るのだろうか。
それはまたの話である。
【第一部 完結】
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