七海と灰原と名乗った少年たちの言う通りに降りていくとスーツを着た男の人に出会って保護された。
怖かっただろう、もう大丈夫などと言われたがそれ程恐怖は感じていなかった。
幽霊とも妖怪とも違う化け物。
義理の父親からは「呪霊」だと聞かされていた化け物。
久しぶりにひどいものを見たなと思っただけである。
ケロリとしているあたしを他所に戻ってきた二人が加わり、車に乗れと言われた。
「家すぐそこだし送ってもらうなんて…。」
遠慮すると七海に手をつかまれる。
「霊障を受けているでしょう。
ほら、この手首。」
ギリっと力を込められると確かに痛みが走る。
「こら、七海、女の子相手にやり過ぎだよ。」
灰原が間に入るがお構いなしに彼はジッと私の目を見つめている。
第一印象は最悪。
二度と関わりたくない堅物とお人好し。
そんな二人に挟まれて車に乗り込んだのであった。
呪術高専と呼ばれる場所まで連行され、治療を受ける。
反転術式の使い手という家入さんに見てもらって手首は無事に綺麗に治った。
「ありがとうございます。」
「礼なんていいよ。
これが仕事だし。」
タバコを吸いながらいう彼女。
学生だと聞いたがいいのか?
そんなこんなで保護者を待っていると夜蛾さんという人に呼ばれた。
「瀬尾さんところの娘さんでいいのか。
一つ提案があるんだが聞いてくれるか?」
気まずそうにファンシーなぬいぐるみを抱いて訪ねてくる。
「暇ですし話だけなら。」
「単刀直入に言おう。
呪術を学ぶ気はないか?」
義理の父親や兄がひよりや他の兄弟たちには内緒で時々聞く単語。
呪術師、呪霊、残穢。
時々、人とは違う化け物が見えていた。
そこに踏み入れたら戻れないことはわかっている。
だが、好奇心には勝てず夜蛾さんの手を取った。
*
ひよりの家は孤児院で瀬尾宗治という彼女の義理の兄が経営している。
「この度はひよりがお世話になりました。」
スーツを着た義理の兄は高専の関係者に深々と頭を下げる。
夜蛾さんは任務があると言って席を外してしまった。
「いえ、お嬢さんがご無事で何よりです。
お兄様にご相談して欲しいことがありまして。」
当人を挟んで話し合いが進む。
「…わかりました。
亡き父もきっと反対はしないと思うので。
転入を了承します。」
渋々と言った態度で了承し、手続きをしていく義理の兄。
なにをそんなに渋る事があるのやら。
そんなこんなで来週から呪術高専生となるひよりであった。
高専の廊下を歩いて義理兄と帰ろうとするひより。
向かいから見知った顔が二つ見えて会釈する。
「さっきはどうも。」
「任務ですので当然のことをしたまでです。」
「もー七海は無愛想だなぁ。
無事でよかったよ。
今から帰り?」
七海とは対照的に灰原は愛想よく笑って頭を撫でる。
女の子の扱いがわかっている様だった。
「はい、来週からこちらに通うことになりました。」
よろしくお願いしますと頭を深々と下げると二人は顔を見合わせて渋い顔。
「…ご友人を救えなかったことを悔やんでいるのですか?だったらやめた方がいい。」
厳しい言葉を投げかける七海を睨んでひよりは反論する。
「別にあんなの友人じゃないし、唯…。」
「ただ?」
「普通の人が見えなくてアタシには見えるものがあるからあそこでは生きづらいってだけ。」
生意気に笑えば七海は眉間にシワを寄せる。
「そんな軽い気持ちで呪術を目指すと痛い目に遭いますよ。」
「ご忠告どうも。」
第一印象は互いに最悪な二人であった。
ひよりたちが去った後、七海はせっかく助けた苦労が水の泡になったことにため息を吐く。
「本人が望むなら仕方がないよ。」
「ですが灰原君、彼女は何も知らない女性なのですよ。」
「それでも俺達だって一般人だった訳だし。
とやかく言う資格はないよ。」
一理あるが七海自身、助かった人が自分の知らないどこかで笑って幸せであってほしい。
そう望む事さえこの業界は許してくれないのか。
「本当にこんなどうしようもないクソな世界に飛び込もうなんてしなくても居場所はあると思うんですがね。」
彼の呟きは闇夜の虚空に溶けていく。
【つづく】
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