少年院から脱出した一同。
瀕死の釘崎を抱えて伊地知さんに預ける。
横を走っていた薙原も満身創痍だ。
何より、コイツは宿儺とは呪力の相性も悪い。
「薙原、伊地知さんと帰還して一級以上の術師を呼んでこい。」
「…やだ!」
駄々をこねる薙原。
だが、これ以上、被害を増やすわけにはいかない。
掴まれてた服の裾を振り解き、俺は背を向ける。
「…解れよ。お前だって勝てないことくらいわかるだろ。」
その呟きに薙原は怯んだ。
「…恵、一つ約束して。」
「なんだ?」
「悠仁を助けて、生きて帰ってきて。」
「当たり前だ。」
伊地知さんに二人を預けて俺は再び、領域へと戻った。
「長生きしろってよ。」
結果として俺は虎杖を助けられなかった。
最後まで他人の心配をし、呆れるほどお人好しだった。
その事実を目醒めた釘崎と薙原に説明する。
「自分が死んでりゃ世話ないわよ。」
釘崎は目を伏せて呟く。
薙原は俯いたまま何も言わなかった。
二人とも泣いてはいなかったが虎杖の死を悼んでいるのは確かだ。
蝉の鳴き声がうるさい。
夏服はまだかと愚痴る釘崎を横目に薙原の方に視線を向ける。
約束を守れなかったのにコイツはただ、俺を責めることなく黙っている。
「なんだいつにも増して辛気臭いなお通夜かよ、恵、志保。」
「禪院先輩。」
顔を上げれば禪院先輩が仁王立ちしている。
「ちょ、ま、真希!それはないって。」
「マジで死んでるんですよ昨日!
一年坊が一人!」
海谷先輩とパンダ先輩が焦った様に禪院先輩に説明する。
「悲しくない。」
薙原が立ち上がりいうが引き結んだ口が痩せ我慢を物語っている。
「我慢すんな。」
ポンポンと薙原の頭を軽く叩く禪院先輩。
この人にもこんな優しい一面があるのかと思いつつ、釘崎に二年の先輩を紹介しながら思う。
「最後に海谷先輩、この人は水を操る術式だ。人見知り。」
「ざっくりとしててわかりにくいんだけど。」
俺の説明に釘崎は微妙な顔で返す。
「ど、どうも、ご紹介に預かりました。海谷夏稲です。
え、えと、私の術式はこんな感じです。」
ミネラルウォーターの蓋を開けて水でイルカを作る。
「え、すご。何これ式神?」
興味を持った釘崎がツンツンと突く。
「は、はい。
伏黒君みたいに凄いものができるわけじゃないけど海洋生物とか鞭のようにしならせたりとかで祓う事はできます。」
おどおどとした態度で海谷先輩が己の術式を説明する。
正直、俺はこの人が苦手だ。
はっきりモノを言わないし、薙原がなぜか懐いているのも気に食わない。
「かいね。」
「な、何かな志保ちゃん?」
今だって彼女の服の裾を引っ張っただけでへらりと笑う。
俺にはそんな甘えた呼び方しねー癖に。
「なんだ恵、嫉妬か?」
薙原達のやりとりを見て禪院先輩がニヤニヤと煽りを入れくる。
「…別に。」
「素直になれよ、夏稲に嫉妬してますって顔に書いてるぞー。」
「しゃけしゃけ。」
パンダ先輩と狗巻先輩も悪ノリしてくる。
この人たちのこういうノリが一番厄介だ。
「で、慰めに来たんじゃないんでしょ?」
俺が切り出せば禪院先輩がニッと笑って交流会の話を切り出した。
何でも三年生と乙骨先輩が不在らしいので俺たちを頭数に加えたいらしい。
「やるだろ仲間が死んだんだもんな。」
即座に三人は返事を返す。
『やる。』
ジャージに着替え、グラウンドで先輩たちのシゴキが始まった。
釘崎は制服のままパンダ先輩に投げ飛ばされ、薙原は海谷先輩と走り込みをしている。
「可愛いジャージを買わせろー!」
釘崎の叫びがこだまする。
「…ぎぶ。」
薙原がへたり込むが禪院先輩がそれに喝を入れる。
「志保!へばってんじゃねーぞ!
あと一周残ってんだろ!」
「ま、真希、こんなに体調悪そうにしてるんだから無理させちゃダメだよ。」
海谷先輩が心配して駆け寄るがアレはサボりたいがための演技だとすぐわかる。
「いや、それサボりっす。」
「へ?」
背中をさする手を髪で拘束し、トカゲのように引きちぎり、逃げようとする薙原。
『待て。』
狗巻先輩の呪言で足を止める。
「こらこら、志保ちゃーん。
どこ行くのかなー。」
パンダ先輩も煽るように立ちはだかる。
観念したように項垂れた。
「むう。」
頬を膨らませて嫌そうな顔する。
「あのー伏黒君。これ解いてくれるかな?」
地面に転がってる海谷先輩を拘束する髪を解こうとすると彼女のスマホがなった。
通話ボタンを押して耳に当ててやる。
「はい、海谷ですが?
へ?五条先生?今から?えーと、志保ちゃん達の特訓に付き合ってるんですが?
ビンタだけは辞めてください。体罰として訴えますよ!
はい、そちらに向かいます。」
通話を終えると同時に拘束が解ける。
「解けましたよ。
で、五条先生は何て?」
俺が聞くと彼女は肩を揺らし、誤魔化すように笑う。
「へ?いやーあ、あの、報告書に不備があったみたいで…。」
あはは〜とあからさまに何か隠してます!と言った態度で彼女はグラウンドを後にする。
私が指定された場所まで来ると五条先生がサングラスを上げて待ってたよと笑みを浮かべている。
「急に呼び出さないでくださいよ。
それで、私は誰のお世話をすれば…。」
「まーまー、とりあえず中入って。」
肩を掴まれ急かされる。
「せんせー、このデッキのリモコンどこ?」
色素の薄い少年が呪骸を抱えてリモコンを探している。
「じゃーん!宿儺の器の虎杖悠仁くんでーす!」
「ど、ども?あー!」
顔を上げた虎杖君が私の顔を見て目を見開いて叫ぶ。
「何?どったの?」
首を傾げる五条先生の他所に虎杖君は私の両手を握る。
「ね、ねぇ俺の事、覚えてない?
去年の12月に肉まん奢ってもらったの俺、アレからお礼が言いたいなってずっと思ってたんだけど。」
朧げに記憶を辿る。
確か仙台の任務先でそんな事をしたような。
「…ごめんなさい。よく、覚えてないです。」
苦笑いを返せば虎杖君は膝から崩れ落ちた。
呪骸が手を離れた瞬間、ボコられる。
うわぁ、痛そう。
「あっはっはっ、これは傑作。
残念だったね悠仁ドンマイドンマイ。」
言葉とは裏腹に慰める気を微塵も感じさせない。
彼の目線に合わせてしゃがんだまま自己紹介をする。
「もう、からかってはいけませんよ五条先生。
あ、あの、大丈夫かな?
私は海谷夏稲って言います。二年生で階級は二級です。」
「親睦を深めるのはそれまでね。
んで、夏稲には悠仁の身の回りの世話をお願いしたいなって呼んだんだ。」
握手をしている私たちに割って入る先生。
前々から思ってはいたが先生は遠慮という言葉を知っているのだろうか。
「そんな悪いって先生。
海谷先輩だって授業とかあるし…。」
遠慮を見せる虎杖君を見習って欲しいものである。
「大丈夫、大丈夫。
夏稲は成績優秀だし何より僕が任務を一ヶ月先までキャンセルしておいたからね。」
鬼だ、ここに鬼がいる。
私があからさまに嫌な顔をすると背中を叩きながらいう。
「というわけでお世話よろしく!
後は若い二人で。」
なんて言い残し、去っていく五条先生が憎い。
「あの、大丈夫?」
「うん、それより虎杖君はお腹減ってない?
何でもは作れないけど映画見るなら摘むものでも作ろうか?」
いいの?と目を輝かせていう虎杖君に免じて私は五条先生の思惑に乗って彼のサポートをすると誓った。
【つづく】
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