キリカと出会い、数ヶ月が経過し、そろそろ本格的に彼女に仕事を任せようと地下室に案内し、演説を聞いてもらう。
「ここロンドンを地獄に叩き落とし、犯罪都市にする。」
彼女の表情を盗み見れば表情筋はピクリとも動かない。
逆に他の面々が動揺し、説明を求めてくる。
丁重に説明すれば皆奮い立った。
「キリカ、何か意見はあるかい?」
彼女に聞けば首を横に振り、一言。
「ワタシはキョウジュのモノだから。」
「もっとキミは自分の意思を尊重した方がいい。」
頭を撫でれば目がスッと細まった。



決行日当日、サウサンプトン。
ターゲットを視認し、ノアティック号に乗り込む一同。
「…さぁ、舞台を始めよう。」
キリカの背を押して船内へと足を踏み入れた。
船内に入った瞬間、彼女に耳打ちする。
「キリカ、ターゲットの周りにいてくれ。
もし、彼が不審な行動を取ったら逐一、合図を。」
「はーい。」
のらりくらりと邪魔にならない程度にキリカは客を装い、彼の周りを歩き回る。
今のところ、何も動きはない。
「ママー!」
アイスを手に持った少女がエンダース卿の横を通り過ぎようとする。
だが足がもつれてぶつかって彼のジャケットに大きなしみを作ってしまった。
その様子を見ていたキリカは同じアイスを頼み待つ。
「あ…。」
「す、すみません。旦那様!!」
エンダース卿は引きつった笑みで夫人に言葉を返す。
「は、はは…お気になさらず奥さん…。」
少女に目線を合わせてエンダース卿は彼女の耳にそっとつぶやいた。
「次やったらママを殺すからね。」
彼女の顔がみるみる間に青ざめる。
「うわーん、ママー!」
泣きながら夫人に駆け寄る少女にキリカは近寄り、アイスを差し出す。
「これ、良かったらどうぞ。」
泣いていた少女はキョトンとした顔でアイスを見つめる。
「まあ、いいの?お嬢ちゃん。」
「はい。」
母親に促され、少女は恐る恐るアイスを受け取って食べてくれた。
「美味しい。ありがとう!」
「良かったわね、私からもお礼を…ってあら?」
夫人からお礼を言われる前にキリカはウィリアムの元へと戻っていく。

 一方でその頃、ウィリアムはというと。
「な?当たってただろ、数学者サン。」
得意げに笑う黒髪の青年に絡まれていた。
ウィリアムが聞き返せば螺旋階段を見上げて彼は説明する。
「キョウジュ、ここに居たの。」
キリカが駆け寄ったのを彼は目を細めていう。
「その子の推理もしてやる。
小児性愛趣味ではなくて使用人として雇ってる。
その証拠に声色が心なしか明るい。
違うか?」
彼の推理にウィリアムは眉を密かに動かし反応する。
「当たりです。
ですが、ボクは彼女を家族だと思っているんです。
では、今度は私が真似て見せましょう。
…そうですね…あなたはヴァイオリンを弾かれる様です。」
その後も男が薬物中毒であることも言い当て淡々と推理を披露していく。
その推理に気を良くし、彼は高々に笑ってさっていく。
「何かあったのか?」
乗員に化けたモランがモリアーティに聞く。
「…いや特に僕たちの障害にはならないだろう。
そちらは?」
「予定通りの席に着いたぜ。
今も作戦は進行中だ。
そろそろお守り変わってやろうか?」
ウィリアムの足元にいるキリカを見ながらいう。
彼は彼女を抱き上げていう。
「作戦の方はこのまま進めてくれ。
彼の我慢はそう遠くないだろう。
大丈夫、暫くは暇だろうから楽しむよ。
…さぁ行こうかキリカ。」
抱き上げられたまま連れられ、デッキに移動するキリカ達。
「ご覧、これが海だよ。」
「綺麗。」
夕闇に沈んでいく景色と波を静かに見つめる二人。
「君の故郷は恐らく遠いこの海の先にある。
行ってみたいかい?」
ウィリアムの問いに彼女は静かに首を横に振った。
「いい。キョウジュやみんなが居れば何もいらない。」
そのヘーゼル色の瞳に何を写したのか。
ウィリアムにも知る由もなかった。

【To be continued】

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