桐生さんという女性に連絡先を渡された夜。
露乃かは自室で悩んでいる。
最初は姉に守られなくても自分の身を守れると証明するために入隊した。
だが、もうその証明は十分果たした。
次なる目標は幼なじみである三雲修の力になること。
玉狛にお世話になればより近くで彼の力になれるかもしれない。
でもそれは公私混同を指摘され、彼の足をかえって引っ張る結果になったら。
「あーもう!私は何がしたいの!」
自分でも分からなくなりベッドに転がり込む。
ご飯よーという母の声に我を取り戻し、冷静になる露乃。
例え、彼の近くで戦えなくても街を守ることで間接的に力になれるのじゃないか。
そう結論に至り、スマホを手に取った。
次の日、ボーダー本部のラウンジにて。
ボックス席に露乃と桐生達が向かい合って座っている。
「連絡ありがとう。
うちの部隊に入るに当たって希望のポジションの確認とかしたいんだけど。」
「…正直まだ決まってません。」
困った様に露乃が不安そうにいえば桐生の隣に座った男が口を開いた。
「なら、俺と一緒にシューターやらない?」
「こら、宵待、自己紹介しろよ。」
机に乗り出した宵待を小突いて桐生は叱る。
「あいて、姐さんキツいっす。
俺は宵待伊月(よいまち いつき)シクヨロ!
ポジションはガンナーっす!
ガンナーはトリオンが少なくても遊撃に向いてるポジションだから面白いよ!」
「は、はぁ、よろしくお願いします?」
手を握られ引き気味に挨拶していると。
「何面白そうなことしてんの。」
軽薄そうな男子が桐生の肩を叩いて絡んでくる。
「おう、犬飼。
今新人のポジション決めだから邪魔すんな。」
あからさまに嫌な顔をしてあしらう桐生。
その視線を辿り、彼は面白いものを見つけたとほくそ笑む。
「ねぇ、君が新人ちゃん?」
「は、はい。
雛菱露乃って言います。」
名乗ると彼は腹を抱えて笑う。
「あっはっは、なるほどねぇ。
これは面白いことになってきた。」
一人納得する犬飼に呆然とする露乃。
バツが悪そうに桐生は舌打ちを打つ。
「あ、俺、雛菱ちゃんの同級生で犬飼澄晴ね、ポジションはガンナー。
ねぇ、妹ちゃんさ、お姉さんに勝ちたくない?」
「…勝ち負けとかそういう事に興味は余りないですけど。」
犬飼の軽薄さに若干、警戒している露乃。
それもその筈、彼は姉妹仲があまり良くないことを耳にし、漬け込もうとしているのである。
「へー、じゃあ君は何のためにボーダーに入ったのさ。
お小遣いのため?それとも…。」
「どうだっていいじゃないですか!」
何かを勘繰る様な物言いに露乃は口を挟む。
もし、彼に私情で戦う事を知られたら弱みになると判断したからだ。
「へぇ、よっぽどの事なんだ。
ま、いいや。
でもさ、オレ、君に興味を持ったからコソ練するくらいなら手伝うけど?」
「…考えておきます。」
露乃の強気な態度に気を良くしたのか犬飼は笑みを濃くして手を振って去る。
「あっそ、精々頑張りなよ。」
そのやり取りを見ていた二人が露乃に問い詰める。
「ね、露乃ちゃん、あの犬飼に何かされたら真っ先にアタシにいうんだよ!絶対!隊長命令!」
「は、はぁ…。」
「俺でもいいからね?
二ノ宮隊にクレーム入れとくから。」
確かに腹を探られる態度はあまりいいものじゃないが悪い気はしない。
「あの、まだ何もされてないので…。
…それより、宵待先輩、ガンナーのご指導を頼めますか?興味が湧きました。」
「本当?!じゃあ早速練習がてら触ってみようか!」
宵待に背を押され、訓練室に向かう露乃。
その様子を目を細めて見守る龍樹がいた事を彼女は知らない。
一方、露乃を見送った龍樹は暇なので後輩指導も兼ねて本部を散策している。
捻挫は治りかかっているがまだ念の為に前線に出る任務は迅から止められている。
だから本部所属になった妹の心配も兼ねての視察なのである。
「あ、龍樹ちゃんだ。
迅さん見なかった?」
ひょこひょこおぼつかない足取りで歩いていると緑川が声をかけてくる。
「緑川か、今日は先輩と一緒じゃないから期待しない方がいい。」
先に断りを入れると彼は拗ねた様にいう。
「ちぇっ、つまんないの。
じゃあさ、じゃあさ、龍樹ちゃんが相手してよ。」
緑川のギラついた瞳にため息をついて彼女は答える。
「悪いが相手してやれない。
先輩命令で怪我が治るまで大人しくしてろというお達しでな。」
「えーいいじゃんケチ。」
駄々を捏ねる緑川をどうあしらおうか考えていると。
「雛菱がやらねーなら俺が相手してやるよ緑川。」
龍樹の右肩が重くなり振り返ると太刀川さんが肘をおいてニヤニヤと絡んでくる。
「重いです。」
「俺が変わってやるって言ってるからこれくらい良いだろ。」
「えー太刀川さんだとオレ一方的にやられるだけじゃん。
ねー龍樹ちゃんやろうよー。」
一歩も引きそうにもない緑川。
「…じゃあ一戦模擬戦ね。」
諦め、了承する龍樹。
「やりぃ!あ、太刀川さんは邪魔しないでよね。」
「へーへー、精々頑張れよ。」
あっさり手を引く太刀川さんを見送る二人。
本調子ではないが感覚を取り戻す為ならいいかと了承した龍樹だがこの後、悪目立ちをしてしまうことを彼女はまだ知らない
【To be continued】
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