エンダース卿を見張る教授。
「キリカ、夜はもう遅いから部屋で先に寝ていなさい。」
「でも…。」
他の皆は作戦の為に寝ていないのにと不満を口をすると。
「大丈夫、キリカには明日重要な役割を担ってもらうから。
わかったかい?」
「はい…。」
渋々と言った感じで彼女は客室へ戻されるのであった。
水面下で予定調和の様にエンダース卿は一般市民を殺し、ウィリアムと共謀してその死体を海へ。
その死体をモラン達が回収しているとは梅雨知らず。
一仕事終えて客室に戻るウィリアム一行。
「なあ、キリカにはちと荷が重すぎるんじゃねーのか?」
心配するモランをよそにウィリアムは口角を釣り上げていう。
「大丈夫、彼女には強くなって貰わないと困るんだ。」
「けどよ。まだあいつは子供だ。
ましてや女だぞ。」
「モラン、君は何か勘違いをしている。女だから子供だからと決めつけて安息を与えて淑女として育つより先を見据えて戦う力をつけてもらう方がこの子のためになるそう思わないかい?」
ウィリアムの言うことには一理あるだが年端もいかない子供を危険に晒すのはモランも賛同はできないのである。
「…じゃあ、こいつが本当に納得してこの道を進むと言ったのなら俺はもう口出ししねーよ。」
「答えは明日、彼女に聞くとしよう。
おやすみ。」
「おやすみ。」
夜は更けていく。
次の朝、朝食をとりながらキリカにウィリアムは質問する。
「キリカ、一つだけ確認いいかい?」
「はい、何でしょう?」
パンを千切っていた手を止め彼女はまっすぐ顔をあげる。
「モランが提案した事だが他の少女達のように淑女になるために学舎に通うことを君は望むかい?」
ウィリアムの緋色の瞳を見据えてキリカは黙り込む。
彼女のアーモンド色の1人が揺らぐ。
確かに、街中で見かける少女達を少しうらやましいと思った事はある。
だが、彼の手を取ったからには恩を返したい。
彼と同じ世界を見て、できることなら彼の隣を歩く人間になりたい。
答えは決まった。
キリカは胸を張って応える。
「…キョウジュ、私は貴方と一緒の世界にいたい。
そのためになら何でもする!」
その言葉に一瞬、目を見開き彼は頷いた。
「その覚悟、しかと受け取ったよ。
それでは今日はよろしくね。」
「うん。」
穏やかな朝には似つかないドロドロとした裏社会のミーティングが始まった。
午後、演目中のVIP石にワインを運ぶ。
それがキリカの役目。
「エンダース様、失礼いたします。」
「入れ。」
「我が主人のウィリアム様からワインの贈り物です。」
楚々のない様に振る舞い、相手の様子を伺う。
引き攣った笑みで手を堅く握っている。
何やら我慢している模様。
(余程、子供が嫌いなんだな。)
エンダースの苛立ちをより一層、強くさせるための演出を買って出た。
「ああ、よろしく伝えておいてくれ。」
震える声色にしめしめと思う。
半刻後、彼自身が仕掛けてくるとも梅雨知らず。
廊下に立っている教授を見つけて駆けるキリカ。
「上手く行っている模様です。」
「ご苦労様、さ、舞台をゆっくり見ておいで。」
「別に…いい。」
「そうかい。
それじゃあ、ショーが終わったら落ち合うからね。」
頭をゆっくりと撫で、彼はVIPルームへと入っていく。
結論として船上での貴族が平民を殺した殺人劇は大成功となった。
人々が動揺を隠せないでいる中、1人冷静に死体を観察する者がいた。
「おめでてーなお前ら。
もう解決したとでも思ってんのか?」
「え?」
「そんな簡単な謎じゃねぇよこれは。」
彼は立ち上がり、水底に消えていった犯人を一瞥した。
航海が終わり、船客が帰る頃、キリカは1人の男に呼び止められる。
「あーったく、女のガキは苦手なんだがお前の保護者どこだ?」
「保護者、違う。」
「じゃあご主人様ってか?
お貴族様の趣味はわかんねぇな。」
皮肉げにいう黒髪の男にキリカは眉をひそめて警戒する。
「キリカ!探したよ。」
「ごめんなさい。」
ウィリアムが肩を抱き寄せ名前を呼ぶ。
「よぉ、数学者。
俺もあんたを探してたんだ。」
「貴方は…。」
そして男の推理を聞いてウィリアムは眉を動かす。
彼の推測はピタリと合っていたのだ。
「…さぁ…どうでしょう。
実に興味深いお話でした。
すみません、この子も疲れてると思うのでもう行かなくては。」
「おお、じゃあな。
もう迷子になるんじゃねぇぞ。」
「はい。」
最後に彼の名を聞いて己の敵をウィリアムは知る。
シャーロック・ホームズという脅威を。
【To be continued】
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