一心不乱に逃げる。
気分は肉食獣に追われる草食獣。
「ほらほら、反撃しようとせずに逃げないと。
コソ練の意味がないよ。」
笑う犬養先輩。
それはまるで八つ当たりも含まれているような。
走る先に弾が来る。
転がるように避ける。
「あっは、さーて遊びは終わりだよ。」
一瞬の出来事だった。
目の前が光に包まれた瞬間、ブースのマットレスに倒れていた。
『妹ちゃーん。
どう?何か掴めた?』
「いや、何にも…。」
何が起こったことすら分からなかった。
二宮隊は一時期A級にも属していたらしいがこれほどの実力とは。
(それでも私は、勝たなきゃいけないんだ。)
「もう一回、お願いします!」
『ははっ、そうこなくっちゃね。』
雛菱露乃は要領がどちらかというと良くない方だ。
だからその分、姉という超える壁が高いのは痛いほどわかる。
だからこそ彼女は立ち上がる。
自分を救ってくれた男の子の為に。
 

 
 ランク戦当日。
解説席に三雲の姿を見て顔を明るくさせる露乃。
「こーら、雛菱。
よそ見してないでちゃんとモニター見てろ。」
宵待が露乃の頭を掴んで前を向かせる。
「痛いです夜待先輩!」
「ジャレついてないでしっかり見とけ。
特に玉狛第二の白髪、そいつをマークな。」
いつになく、渋い顔で桐生がいう。
「えー俺的にはあの壁をぶっ壊した雨取ちゃんって子が怖いかと。
そーいや雛菱はあの三人と仲良いんだろ?
何か知ってないか?」
宵待が大袈裟に肩を抱いて震える。

「遊真っちと千佳ちゃんのことですか?
あの子達は確かに凄い子です。
でも一番気をつけた方がいいのは…。」
チラリと三雲の方を見る。
「あのメガネくん?
確かに大規模侵攻の功労者だけどトリオンも大した事ねーしノーマークでも大丈夫っしょ。」
鼻で笑う宵待に露乃は唇を尖らせ反論する。
「彼を侮らない方がいいです。」
「おうおう、一丁前に先輩に抗議か?」
頭を抱えられぐりぐりと軽く小突かれる。
その瞬く間に決着がついたと言うアナウンスが響き渡る。
二人してモニターを見ると余裕そうに笑う遊真。
砕け散ったトリオン体のB級隊員。
「な、何が起こったんだ。」
宵待の呟きに呆れた桐生が代弁する。
「あの白髪がスコーピオンだけで全員を相手取って瞬殺した。
アタシにも攻撃が見切れない。」
両手を上げてお手上げという顔で首を横に振る。
「…ははっ、冗談でしょ。」
「冗談なんて言わねーよ。
一気に荒船隊とうちの隊と同格になったし。」
モニターには玉狛第二が一気に昇格した事がアナウンスされている。
その事実に驚愕する宵待。
「な、なぁ、雛菱。
もしかしてあの白いの緑川をコテンパンにしたやつ?」
「そのもしかしてですよ。」
「えーもう俺ら勝ち目ねーじゃん。
荒船達より一個下のランクだし隊長しかほぼ実力ねーってのに。」
「え、自信ないのですか?」
露乃が首を傾げる。
飛彩は深いため息をついて口を開いた。
「はぁー、まさかまさかのダークホースが居るなんてねぇ…。
うちも中の下をキープしてきたけど危ういかも…。」
「飛彩さん…遠征を目指しているんですか?」
「…目指さない隊の方が珍しいよ。」
二人は沈痛な面持ちでこめかみを抑えた。

 一方、迅と龍樹はというと。
玉狛第二の活躍を展望席で眺めていた。
「あれ?
唐沢さんってランク戦とか見る人でしたっけ?」
「…玉狛第二デビュー戦勝利おめでとう。
今日は三雲くんは出ていなかったみたいだね。」
タバコを咥えながら答える唐沢。
そのやりとりを眺める龍樹。
「雛菱さん、君の妹さんも確かB級部隊に所属になったんだって?」
「はい、おかげさまで。」
「君には複雑かもしれないが守られる無力さほど虚しいものはないよ。
だから君の妹さんは戦う道を選んだんだろうね。」
「…それは分かってます。」
「なら、大丈夫だ。
それと迅君、君もいつまでも落ち込んでないで後輩を応援してあげたらいい。」
「俺は唐沢さんほど切り替えが早くないんですよ。」
「俺ラグビーやってたからね。」
「関係ありますか?」
「はっはっは、想像にお任せするよ。」
ぽかんと二人して顔を見合わせる。
唐沢は片手を上げてさって行った。
「にしても玉狛第二はとても成長が早いですね。」
「危なっかしい所もあるけど遊真や千佳ちゃんが居ればメガネくんもブレーキがかかるでしょ。
それより妹ちゃんは?」
「あの子は自分なりに足掻いてるみたい。
見守る歯痒さって初めて知りました。」
展望席から見下ろして、妹の頭を見る。
「ふーんいい顔するようになったね龍樹。」
「な、からかわないでください。
…でもできることならあの子には大人しくして欲しかったなぁ。」
姉としては一般人として戦う脅威に晒されない土地で過ごしてほしかった。
でも、彼女がそれを望むのならもう何もいうまい。
「へぇ、大人になったね。」
「もう、一つしか違わないのにおじさんくさいです。」
「えー俺は素直に褒めてるのに…っともうすぐ帰らないと。」
「いつものサイドエフェクトですか?」
「そうそう、今帰るとレイジさんの手料理が出来上がるタイミング。」
クスクスと笑いながら二人で手を繋いで帰るのであった。

【To be continued】

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