最近、霧深い夜に馬車に乗った魔法使いが来るらしい。
「いいかい、キリカ。
くれぐれも夜寝る前は戸締りを怠らないように。」
「はい、キョウジュ。」
「よろしい、ではおやすみ。」
額に優しい口付けを送り、書斎のドアを開ける。
これが夜の彼らの日常。
入れ違いにフレッドとモランが入ってくる。
「こんな時間にどうしたんだい2人共。」
沈痛な面持ちでフレッドが切り出す。
「はい…その…報告があって。」
モランとウィリアムは何かを察し、アイコンタクトを取る。
「…フレッド、ゆっくりでいい話してごらん。」
「は…はい!
証言があったのがダートムアなんです。
恐らく人狩りはまだ行われています!
それも力の無い子供達を騙して連れて行き嬲り殺しにしている…!
貧民街の子供なんて何人居なくなっても気にも留めない。
だから人狩りなんてやってしまえるんだ!
許せないんです!人を人とも思わない…そんな奴らがのさばっている事が!!」
フレッドの感情に任せた報告にドアが開いた。
「…何かあった?」
眠たげに目を擦りながらキリカが来た道を戻ってきた様だ。
「ああ、起こしてすまないね。
大丈夫、なんにも無いよ。
キリカは安心して部屋に戻って。」
ウィリアムが取り繕う様に笑いかけると素直に頷く。
「…ごめんなさい、感情的になってしまって。」
キリカに目線を合わせてフレッドが謝ると彼女は頭を撫でていう。
「ケンカ、してないならいい。
お仕事、頑張って。」
フレッドは優しく手を振り、彼女を送り出す。
「報告ありがとう、フレッド。
そうか…まだ人狩りなどという蛮行を続けているものがいるのか…。
…フレッド、君は階級制度瓦解の計画のためには、僕が二度と同じ轍は踏まないと判断してその報告を逡巡した。
…違うかな?」
鋭い視線がフレッドを射抜く。
「…は、はい…無駄な事だと思われるかと。」
「無駄…そんな事はないんだよ。」
ウィリアムはニヒルな笑みを浮かべて作戦を講じる。
あくまで貴族という悪党を狩るなら自分たちも同じ悪党の出番だと。
後から来たルイスも説得しつつウィリアムは来たる未来に想いを馳せる。
「…この作戦にはあの子が必要だ。
できれば安全圏でじっとしていてほしかった。」
弟と娘。
どちらもかけがえの無い存在が己の夢の為にその手を血に濡らそうとしている。
全ては彼の采配にかかっている。
*
次の日の夜。
キリカはボロ布を纏い、街を歩く。
「見ない子…。」
「黒髪、奴隷の子?」
奇異の目でキリカを見つめる貧民の子供達。
霧深い大通りから馬車が通りかかる。
ふくよかな紳士が子供達ににっこり笑いかけ、菓子を片手に誘う。
「…やぁ君たち。
お菓子はいらんかね?
沢山あるぞ、勿論お金なんていらないよ。」
お菓子と聞いて駆け寄ろうとする子を制し、怪しく睨みつける。
「遠慮することない。
こーんなに沢山あるのだから。」
高々に菓子を降らせる。
「わぁ!」
我先にと子供達は菓子に群がる。
その様に紳士は笑みを深めた。
「ハッハッハッ、もっと欲しい子は馬車に乗りなさい。
お菓子だけじゃない、ご馳走も用意しているよ。
ダームドアにいる私の主人は名のある慈善家でね。」
子供達に夢のある言葉で誘い、馬車に乗せる。
キリカもその列に混じって乗り込む。
その瞬間、空を見上げたらフレッドが屋根の上にいた。
キリカは無言で頷き、子供達と同じ様に行儀良く席に座る。
「ねぇ、君、どこから来たの?」
兄妹らしき子供がおずおずと聞く。
「…この街の地主のお屋敷から捨てられて。」
嘘をつくのは心苦しいがあくまで潜入の為と心を閉ざす。
【To be continued】
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