恥の多い人生だったと思う。
「ヒック、ニーチャン、金出せや。
これで殺されたくなければなぁ!」
酔っ払いのホストに嬲られ殺されそうになったあの夜。
「何してんだよ!」
満身創痍の少年に助けられた。
彼は鉄パイプを持ったホストを殴り倒し、振り返る。
「怪我、ねぇか?」
「あ、は、はい。」
「…ったくこっちは虫の居所が悪いってのに。」
ぶつぶつと彼は俺の横を通り過ぎようとする。
「あの、良かったらこれ。」
血が滲んでいる頬にハンカチを回り込んで手渡せば手を払われる。
「しつけーな。
俺は負けてイライラしてんだよ!」
「せ、せめてお礼だけでも言いたくて。
俺、滝本総司。」
「あ?滝本ってあの、滝本?」
「君がどの滝本って言ってるかわからないが俺の親父は政治家だよ。」
「…坊ちゃんがこんな夜道になんで歩いてんだよ。」
「部活帰りでね。
君こそ、中学生だろ。」
「カンケーねーよ。
んで、用はすんだろ。」
「名前を聞いてない。」
「花垣武道これでいいか?」
「うん、よろしく。」
じゃあまたねと手を振って別れた。
彼のお陰で俺は母のお気に入りのホストから逃げ切れた。
後でお礼をしなくてはと歩くが近くの公園で彼の怒号を聞いて戻ってくる。
どうやらカツアゲから少年を守ったらしい。
人は見かけによらないものだなと思う夜だった。
 
12年後
 
「大丈夫ですか!」
線路に飛び込んだ青年をもう一人のスーツの男の人と共に引き上げる。
「意識が…誰か駅員さんを!」
「俺呼んでくるから頼んだ!」
彼の呼びかけに俺は自然と体が体が動いた。
髪型や髪色は変わってもわかる。
彼はあの12年前、酔っ払いから助けてくれた武道君だと。
 
 *
 
 その日は夏真っ盛りのある一日だった。
「ケンチン、舞、学校終わってっかな。」
たい焼き片手にマイキーが呼びかける。
「知るかよ。
お嬢校の時間割を俺が知ってると思うか?」
「早く夏休みになればいーのにな。
そしたら舞を俺んちに連れ込めるのに。」
マイペースに彼は言う。
「いーけど舞ちゃんの許可とれよ。
集会あるから今日は寝んなよ。」
「ん、じゃ迎えにいってくる〜。」
バイクに跨り去っていくマイキーを見送る。

 羽川女子学園にて。
滝本舞は頬杖をついて夏休み前の注意事項を聞いていた。
「ですから、くれぐれも異性との不純交遊や無断外泊などくれぐれもないように。
ご実家に帰られる方は帰省届けを提出するのを忘れずに。それでは、解散。」
はーいとやる気のない返事を女子生徒らはし、解散のかの字を聞く前に立ち上がる。
「舞〜あんたの彼氏、来てんよ。」
窓際の友達が舞に呼びかける。
「はぁ、マイキー、迎えに来ちゃダメって何度も言ってるんだけどなぁ。」
諦めてスクールバッグを肩にかけて昇降口まで走る。
通りにいる先生が叱るが知らんぷり。
スニーカーに履き替えて学校から出ると愛しい彼氏様が出迎える。
「もーいっつも迎えに来なくていいって言ってるでしょ。」
「俺がやりたいからやってんの。
後ろ乗って。」
はーやーくーと催促するので周りの視線が痛い。
「もう、これっきりだからねマイキー。」
「これっきりってそれ何回目だ。」
言い合いをしながら彼のバブに乗せてもらう。
毎日ではないがたまに土曜日や日曜日の外出可能時間を利用してドライブデートをするのが私の密かな楽しみだ。
「ねー夏休みいつから?」
エンジン音に負けない声が耳に響く。
「一応今日から、帰省許可は貰ってるから。」
「ふーん、じゃあウチ来る?
着替えとかは前のまだ残してあっから。」
彼の申し出は嬉しいことだが私の父はそれを許さないだろう。
「…嬉しいんだけどお父様の許可が無いとなんとも。」
ため息混じりにいえば彼はバイクを止めて一言。
「どーせ兄貴やおふくろ帰ってきてねーんだろ?
言いつけなんて守る必要あんの?」
私の実家は子供にとっての牢獄だ。
家に帰ろうものなら至る所に監視カメラが張り巡らされ、外出しようものなら一々、使用人に報告しなければならない。
兄もそれが嫌で神奈川の高校を受験し、東京を脱出した。
そんな兄の二の舞にならないようにと私は中間一貫校へ受験させられた。
母はその監視生活に耐えかねてホストにハマり、その男のアパートに入り浸っている噂を耳にする。
「そうだね。
宿題は持ってるから遠慮なく泊まっていい?」
「ん、ならエマに言っといて。
じゃーファミレスにいくか!」
彼は機嫌良くエンジンを響かせて走る。
こんな日々が続くだなんて考えてはいない。
でも、彼が笑う世界に私も隣で笑い合えたらそれが何よりの幸せ。
腰に回している腕をぎゅっと強めた。
そうして私は束の間の幸せを噛み締める。
【To be continued】
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