バッサリ髪を切られ距離を取る。
轟音と共に投げ飛ばされた恵を見やる。
頭から血を流しながら彼はまだ諦めていない。
だったら、志保自身もこの目の前の先輩という障害を跳ね除け無ければと奮い立つ。
「絶対、倒す。」
「笑止、それはこちらのセリフです。」
お互いに譲れないプライドだけで立ち上がる。
呪力を込めようとしたその瞬間。
『動くな。』
狗巻の呪言がその場全員に届き、身を硬くする。
「何やってんのー!!!」
東堂と恵の間にパンダが殴り込む。
「フウ、ギリギリセーフ。」
一方で志保と羽純の間にも夏稲が降り立つ。
「二人とも!交流会前の喧嘩はメッ!だよ!」
「興醒め、海谷女史、これは私闘ではありません。
実力を測る為の謂わばリハーサルです。」
「だからって私達の大事な後輩を痛めつけて良い理由にはならないわ!」
二人が睨み合っている間、東堂は駆けつけた二年を横見しこう言った。
「乙骨に伝えておけ、オマエも出ろと。
帰るぞ真依、新戸部。」
「賛成、狗巻氏、東京案内してもらえないでしょうか?」
変わり身の早い羽純は狗巻に詰め寄るが彼は首を横に振った。
「おかか。」
「残念、またの機会が有ればお誘いいたしますね、では。」
東堂は高田ちゃんの握手会がー!と走り去っていくので二人もその後を追う。
「みんな、手当てするから取り敢えず医務室に行こうか。」
夏稲の苦笑いと共にゾロゾロと向かう一行なのであった。
 


 交流会まで後輩の指導と五条先生に頼まれた虎杖悠仁君の世話に勤しむ夏稲。
「で、ミミズ人間知ってるやつだったの!」
任務先でどうやら友人ができたらしい悠仁に目を細める夏稲。
「それは良かったね。
報告書は書けそう?」
「一応、五条先生に教えてもらってるけどこれで大丈夫?」
チェックを頼まれて目を通す。
字は男らしいが丁寧にかかれた書類に感心する夏稲。
「うん、日時も書かれてるし大丈夫。
後で五条先生に渡しておくよ。」
「ね、夏稲ちゃん先輩、俺、報告書も任務も頑張ってるからご褒美が欲しいな。」
あざとく上目遣いで迫れば夏稲は目を逸らす。
後一押しで甘えられるそう思ってた矢先。
「ねー夏稲、京都高の奴らが襲撃してきたって本当?」
後数センチでキスできる距離まで詰め寄った。
だが、無遠慮にドアは開けられ、五条先生が来てしまった。
「ひゃい!
えーあーまあ、その事はですね…。」
耳まで真っ赤にして離れる夏稲。
その様子をつまんなそうに眺める悠仁だった。
 
 数日後、彼は軽症を負ったままソファに寝転がっていた。
「ど、どうしたの悠仁君。」
心配になり、夏稲は彼に駆け寄るとそのまま抱きしめられる。
痛いくらいに回された腕が締め付ける。
「…夏稲ちゃん先輩、俺、生きてちゃいけないのかな?
誰かを不幸にしちゃうしきっとこの先も沢山の人が俺のために傷つくんだと思う。」
肩に埋められた悠仁の声は震えていた。
「…少なくとも私は生きてて欲しいよ。
悠仁君とまたあえてよかって思ってる。」
訳は聞けない。
だがなんとなく察する。
任務先で犠牲が出ることは日常茶飯だ。
だが、彼には過酷すぎる業を背負わされている。
それはわかっているつもりだ。
「…本当に?」
ボソボソと吉野順平が一般人を手にかけ、敵に呪霊にされたことを語ってくれた。
「そっか、それは辛かったね。
今日だけはゆっくり休もうか。
何か食べたいものはある?」
背中を撫でて落ち着かせる。
だが、彼は泣き止まない。
「…食欲ないからいいや。」
鼻を鳴らしながら彼は言う。
「一応、おにぎりとか作っておいたから食べたくなったら言ってね。
それじゃ。」
一人になりたいだろうと帰ろうとする夏稲の服の裾を掴む。
「あ、え、えっと…まだいて欲しいと言うか…なんというか。」
素直に甘えられない自分を悔やむが夏稲は明るく笑って振り返った。
「それじゃあ、今日はずっといるから。
悠仁君の望むことなんでもしてあげる。」
おいでと手を広げると勢いよく飛び込んでくる。
正直この気持ちが恋心なのかはまだはっきりしない。
だが、夏稲は弱っている男の子を放って置けれるほど非道な先輩にはなれなかった。
 その後、傷心の彼にお風呂入れてやり、甲斐甲斐しく世話を焼く。
「ドライヤー、暑くない?」
「うん、気持ちいいよ。」
髪を乾かしてやり、狭いベッドで二人して寝る。
「手、繋いで寝ていい?」
眉を下げてまるで捨てられた子犬のようだ。
「いいよ。おやすみ悠仁君。」
「おやすみ、夏稲ちゃん先輩。」
せめて、夢の中だけでも安息を。
そう祈りながら彼女は目を閉じた。
 
【To be continued】
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