某日、ダラムのモリアーティ邸。
キリカはいつもの様にシルバーを磨いていると急に扉が開かれた。
「やあ、キリカ。」
「おかえりなさい、キョウジュ。」
「ああ、ただいま。
それでキリカ、ロンドンへお仕事ついでに旅行をしてみないかい?」
彼が誘う時はいつも裏があるから気をつけろとモランからいつも言われている。
だが、裏があろうがなかろうが彼女は彼の言うことに首を横には降らなかった。
素直に身支度を整え、荷物用のカバンを取り出して服を詰める。
「着替えはこれくらい…あとは…。」
もしもの用の暗器を鞄の底に忍ばせる。
ウィリアムやルイスの身に何があっても自分が動ける様に。
そう教えられた通り、彼女は彼らのために刃を仕込む。
 
 ロンドンへ向かう汽車は豪華ではあるが若干揺れが激しい。
「おっと、大丈夫かいキリカ。」
食堂へ向かう道中、転びそうになったキリカの背をウィリアムが支える。
「…大丈夫。」
顔をほんのり赤くし、背けて走り出す。
「おーい、走ると危ないよ。」
注意もそこそこに早足で向かうキリカ。
(兄さんも罪作りなお方だ。)
その様子に何かを感じるルイスなのであった。
三人はその後、窓の風景と車内での食事を楽しんだ。
「ほら、ついているよ。」
「…自分で拭ける。」
ナプキンでキリカの口元を軽く拭う。
楽しく食事をしていたが。
「よぉ、教授、奇遇だな。」
ドカリとルイス側の席にやや乱暴に座るホームズ。
キリカは睨み、ルイスとウィリアムは動揺する。
「…あなたは…諮問探偵のシャーロック・ホームズさん。
ノアティック号でご一緒でしたね。」
平然を装い、対面する。
「…すみませんが私達もう、食事が終わったところで。」
ルイスが起点を利かし、席を立とうとするが。
「デザートと食後酒は、まだ来てねぇ…だろ。
嬢ちゃんもデザートくらいは楽しみたいよなぁ。」
皿を見渡して推理するホームズ。
「…。」
黙ったまま、キリカは警戒を解かない。
「ちょっとだけ話を聞いてくれよ。」
食い下がるホームズにより警戒の色を強めるルイスとキリカ。
だが、そんな二人とは裏腹にウィリアムは微笑んで快諾する。
「…勿論、私達も丁度退屈していたところです。」
その返事を聞き、ホームズは語り出した。
彼の話を要約すればヨークまである事件を捜査しに行った。
その事件は平民が貴族を殺すと言った何の変哲もない事件だった。
だが、さらに深堀して行くうちに黒幕がいる事をホームズは掴んだ。
容疑者である平民に問い詰めればウィリアムが犯罪卿だと自白したのだ。
「…成る程、それは面白い主張ですね…。ですがやっていない事を証明するのは不可能です。
そして…私がやったと証明するのが貴方の仕事では?」
嫌味の様にウィリアムが言う。
キリカも無言で息を呑む。
張り詰めた空気の中、愉快そうにホームズが笑う。
「クッ、はっはっは!
冗談!冗談だよ。
こいつは悪魔の証明だもんな!スマンスマン!
そのキレる犯罪卿ってのが、お前だったらいいなって思ったんだよ。」
おちょくる様に言うホームズに一瞬だけ、ウィリアムは目を見開き、静かにこう答えた。
「Catch me if you can, Mr.Holmes.
…とでも申し上げれば貴方の気はすみますか?探偵さん。」
腹の探り合いもそこそこに、談笑しているとヤードの男がホームズを探しにやってきた。
どうやら、列車の中で何か事件が発生した模様。
キリカたちも連れられる様に現場に向かうと客室に血まみれで倒れてる被害者と血で汚れたスーツで呆然と立ち尽くしているワトソンの姿が。
「…返り血。」
眉をひそめながらキリカが呟く。
「ルイス、悪いがキリカには刺激が強いから少し、休ませてあげて。」
「…ここにいる。」
ウィリアムのスーツの裾を掴み、その場にいる事を主張するキリカにため息をついてウィリアムはそれを承諾するのだった。
【To be continued】
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