薙原志保は感情の起伏が薄く自身の気持ちを伝えるのも不器用な子だ。
だが、最近では割と表情をコロコロと変える。
これも彼らの影響かと思えば喜ばしいものだが五条にとっては少しだけ不服なのだ。
特に伏黒の隣にいる志保は心なしか少しだけ機嫌がいい。
「僕にもあんな顔見せたことないのに。」
初めて出会った時は人形の様に笑わずただ機械的なコミュニケーションしか取れなかった。
根気よく寄り添い心を明かしたのは僕なのにと無自覚に嫉妬を募らせていた。
それが兄代わりとしてなのか男としてなのかはわからない。
愛とは恋とは一番恐ろしい呪いだとわかっているはずなのに。
「悟、チョコどーぞ。」
ふと、顔を上げると志保の優しい瞳がこちらを見ている。
小さな小箱を目の前に差し出してくる姿が愛らしい。
「あ、ありがとう。いやーまさか志保からとはね。」
一瞬だけ面を食らったが何でもない様に装う五条。
だが内心、嬉しすぎて衝動に身を任せて志保を愛でたいくらいは喜んでいる。
いい年した大人という建前を保たせるのは難しい。
「悟、甘いの好きでしょ?
だからみんなで買いに行った。」
手作りか彼女が一人で選んだものかと期待はしていたがあっさりと裏切られて少し凹む。
あからさまに不貞腐れた顔の彼に志保は小首を傾げる。
「嫌だった?」
「いーや、べっつにー。」
子供っぽく拗ねればちょいちょいと肩を叩かれて顔を上げるとサングラス越しの目の前にチョコが差し出されてる。
「…あーん?」
何に拗ねているのか分かりかねるが取り敢えず機嫌が直るであろうと彼女なりに思案した結果らしい。
「ははは、びっくりした。
まさか志保からそんなことしてくれるなんて嬉しいなぁ。」
食べると矢継ぎに次を差し出されるこれでは餌付けだ。
餌付けされるのもいいが餌付けする方が好きなので箱からこっそりチョコを摘んで彼女の口元へ差し出す。
「今度は僕の番ね。はい、あーん。」
「…悟にあげたものなのに。」
「いーのいーの、美味しいものは独り占めするのはもったいないしね。」
そう笑うと渋々観念したのか小さな口を開けてチョコを頬張る志保であった。