千春は薙原家の門前で低級の呪霊に囲まれていた。
「チィ、なんで結界の内側から呪霊が湧き出て来やがるんだ!」
呪具を振りかざし、懐中電灯の光を反射させて呪霊を焼き祓う。
彼の術式は反射鏡。
魔を打ち祓う鏡に呪力を流し、光によって浄化する。
大多数の雑魚相手なら負けなしだが特級や一級の呪霊を相手にできるほどの準備もなければ技量も足りて無い。
(雑魚は殺れるが…これじゃ埒があかないな。)
仮にも他人の自宅の敷地前でドンパチやってる身だ。
もうすでにバレて居るであろうが上の連中が何というか。
(まあ、それでも薙原に借りを作れると思えば…しまっ。)
懐中電灯を落としてしまい呪霊の攻撃を避ける。
懐中電灯を取りに行こうものの囲まれて身動きが取れない。
『術式反転、赫。』
その時だった、懐中電灯を踏んでいた呪霊が吹っ飛んだ。

「お困りのようだねぇ、千春。」
塀上に悠々と降り立つ千春の先輩。
もとい、五条悟はニヤリと口元だけ釣り上げて笑う。
「先輩、そんなところでカッコつけてないでさっさと片しますよ。」
呆れた声で返すとひらりと隣に降り立ち千春の頭を撫でる。 
「可愛い後輩がピンチなのを見過ごせないってね。さーて、先生に報告はどうしよう。」
ウジャウジャと湧きあがる低呪霊。
「二手に別れましょう。」
千春がそう提案すると待ったと言わんばかりに五条は前へ出る。
「いやその必要はないみたいだ。」
低級呪霊が寄せ集まり捏ねくり回り、不気味な呻き声を発する。
「これ何級くらいだと思います?」
遠慮がちに千春が聞くと印を結んだ五条が前へ出る。
「さぁてね。うまく避けてね千春。」
嫌な予感がして千春は後ろへ下がる。
「領域展開、無量空処。」
領域が展開された瞬間、呪霊の塊が収縮し、塵となる。
「相変わらず、狡い展開っすねぇ〜。」
千春の関心に一仕事終えたように息を吐く五条。
まるで造作も無いと言わないばかりに彼の余裕は鼻に付く。
「ふぅ、さて、先生にはなんて報告しようかねぇ。」
「それ、俺のセリフ何ですが。」
悪態をつきながら男二人は薙原家を後にする。
それを監視する影にも気付かずに。
「チィ、あの白髪頭め。お兄様との戯れを…許さないんだから!」
地団駄を踏む晃。
だが夏油からの連絡に冷静さを取り戻し帰っていく。
 

 
 夜蛾に報告を終え、五条は寮へと戻り、就寝する。
その夜、確かに就寝したはずなのに五条は和室に立っていた。
(精神干渉かここは…。)
何処だと辺りを見回しているとぼんやり金髪の少女が浮かび上がる。
「…だぁれ?」
小首を傾げながら問う少女。
「誰って…こっちが聞きたいんだけどなぁ。」
困ったなぁと頭をかきながら言うと。
「…志保。」
小さな声で俯きがちに言う志保と名乗る少女。
(志保って…たしか薙原の。)
情報を聞き出せるかもと志保の目線に合わせて話を続ける。
「そっか、志保ちゃんって言うだね。お兄ちゃんの名前は悟って言うんだ。」
「悟?」
「そう、それで君はどうやって僕の夢に来たんだい?」
 あくまで優しく問う。
少し考えた後に志保は口を開く。

「…夢、寂しかっただけ。」
寂しさだけで引き寄せられたのか。
呪いの根源は基本的に負の感情と聞く。
だが直接的な縁がない五条と志保が引き合うはずもない。
直接的な縁といえば監査に行った千春の方がより強い。
(波長が合うのかはたまた必然か…。)
「悟は…の事、怖くないの?」
消え入りそうな声で彼女はいう、自分のことが怖くないのかと。
幼気な少女相手に怖がる必要がどこにある。
色々聞きたいところだが彼女の瞳に怯えが見え隠れしている。
「志保ちゃん、怖がらないでよく聞いて、君は一人じゃないんだ。
こうして出会ったのも何かの縁だからなんでもお兄ちゃんに言ってごらん。」
五条は優しく諭し、彼女の頭を撫でた瞬間。
(なんだこの呪力と術式は!)
人間ではあり得ない様な呪力と緻密に編まれた術式が手から這う様に伝わってくる。
まるで虫の様に。
だが反転術式で反撃可能だったので五条には何ら影響はない。
 ざわつく手を離すと志保はやっぱりとつぶやき悲しい顔になる。
「嗚呼、ごめんびっくりしただけで怖くはないよ。」
これで薙原家の闇の一端が感じられた気がした。
「…お爺様が呼んでる。」
泣きそうな顔でそう縋る彼女は助けを求めていたのかもしれない。

 気がつけば夜は明けて目を覚ましていた。
待ってと伸ばした手は虚しく空を切り五条は歯噛みする。
「嫌な夢だなぁ。」
夢のことを報告すべきか胸にとどめておくべきか一瞬だけ迷ったが先生に相談したほうがいいと完結させる。

「…ということがありまして、先生どうしましょうか?」
呪骸の手入れをしている夜蛾に報告するとサングラス越しに彼は怪訝な視線を向ける。
「その少女は確かに志保と名乗ったんだよな?」
「はい。」
「他に何か感じたことは?」
感じた事といえば夢にもかかわらず彼女の体温が異様に冷たかった事、寂しげな顔で助けを求めてきた事。
「わかった。上の連中には報告しない。だが学生だけで解決できるともはっきり言えん。
俺のツテで戦力を集め次第、乗り込むぞ。」
「先生、それは…。」
五条の動揺に夜蛾はニヤリと口元だけで笑ってみせる。
「薙原のジジイにカチコミだ。」
そう言って立ち上がる夜蛾の背を追いかける五条。
賽は投げられ出目は何を示すのだろうか。
絶望か希望か。
少女の運命や如何に。


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