「志保にプレゼント?」
キョトンと五条は問い返す。
「…薙原には世話になってるんで。」
目を泳がせながら伏黒が言えばニヤリと口元だけ緩ませる五条。
「いいね、いいねぇ青春だねぇ。」
「別にあいつのことなんて何とも…思ってません。」
僅かに動揺を見せる伏黒に対して顔を近づけていう。
「隠さなくてもいいのに。
うんうん、最近めっきり可愛くなってきたもんねぇ。
わかるよ。
僕は毎年、手紙を書いて花束を渡してるけど恵はどうしたい?」
どうしたいとは?と聞き返す伏黒だが今のところ同級生以上の感情を持ち合わせていながらその感情が未だわからない。
「…わかりません。」
「うーん、教えてあげてもいいけどそれじゃあ面白みがないからなぁ。
じゃあヒント、志保が僕といる時の顔を見て思うことは?」
五条と志保がいる時の顔は少なからず雰囲気が穏やかで微笑ましい。
「…微笑ましいと思います。」
「じゃあ、さ。
その顔を恵自身に向けて欲しいとは思わないの?」
思いたいがそれ以上を望んでしまいそうで躊躇する。
何故?薙原は単なる仲間でいいはずだ。
「恵は難しく考えすぎなんだと思うよ。
志保は恵が思っている以上に君の事嫌ってないから。」
そう意地悪そうにいう彼に感謝しつつも嫌気が胸に残った。
「…ありがとう、ごさいました。」

薙原が好きなものを聞くつもりが挑発されて終わった事に悔しさを覚える。
何故、先生はああも彼女に執着するのか。
(否、執着しているのは俺か…。)
どちらでもいい。
だが今日は彼女の誕生日。
何を渡せばいいか困っているとSNSで1年の教室に集合と連絡が来る。
(虎杖達がまた訳の分からない事を始めたな。)
志保の誕生会をやるのだと張り切っているようだ。
既に『あんたが主役』と書かれたタスキをかけて椅子に座って無表情でピースサインをしている志保の写真が送られてきた。
寮から走って教室まで行き、ガラリと戸を開けると主役の志保だけが座っている。
「他のやつは?」
「みんな用事思い出してどっか行った。」
心なしか寂しそうにつぶやく彼女の前まで行く。
さっきまで賑やかにやっていたであろう菓子の山がまだそのままだ。
おそらくどこかに隠れて様子を見ているのだろう。
探すのにも手間なのでフシグロはため息をつく。
「恵、嫌だった?」
「そうじゃねぇ。
こんなに盛大にやっといて主役を置いて行くなんて怪しいなってな。」
「…恵がいるならいい。」
「…そうか。」
沈黙が続くのが苦痛だが志保も伏黒も口数が多い方ではない。
虎杖でも居れば別だが。
「その、薙原、このあと暇か?
別の日でもいい、でもお前の誕生日に何も用意できなかった。
だからその罪滅ぼしという訳じゃねぇがお前の行きたい場所に行って見たい。」
照れながら言い切ると伏し目がちな志保の瞳が大きく見開いた。
「…いいの?」
「お前さえ良ければ。」
「じゃー、このあと寮の屋上に来て。」
屋上から何が見えるのか。
「屋上かわかった。」
そう約束するとタイミングを見計らったかのように虎杖達がなだれ込んで来る。
騒がしいパーティーの再会を喜びつつも二人は複雑な気持ちで楽しむ。



その夜、まだ肌寒いのでブランケットを用意して寮の屋上へ上がると先客がベンチに座って上を見上げていた。
声をかけようか迷ったが横顔が石膏像のように綺麗で一瞬、戸惑う。
「…薙原。」
声をかけた瞬間、瞬きをし、こちらに首だけ動かして志保は伏黒を捉える。
「こんばんは、恵。」
「隣、いいか?」
「うん。」
静かな屋上で二人きりの天体観測。
「いつもこうしているのか?」
「ううん、でもここは私の特等席。
悟にも教えてない。」
特等席という言葉だけで伏黒は少しだけ顔を赤くする。
「そ、そうか。でもこれじゃあ俺がもらっているじゃないか。」
「…それでいい。
恵がここを覚えて時々一緒に見てくれさえばいい。」
そう呟いて再び見上げる彼女。
その横顔はほんのり赤く血色がいいように見えた。
「綺麗だな星。」
「…うん。」
自然とつながる手と手にお互いの体温を感じる。
今はまだこの気持ちに名前はない。