似たような体験を何処かでしたのかもしれない。
瓦礫に埋まり、助けて助けてと手を伸ばすのを何となく二度目だと感じる。
顔は覚えてないが誰かに助けられる感覚は知ってる。
あれは果たして誰だったのだろうか。
商店街、逃げ惑う人々助けを乞う叫び声が響く。
爆撃に人々はなすすべもない。
私たちは瓦礫に阻まれ避難する事すら難しい。
「怖いよう、お母さんどこに居るの?」
そう泣き叫ぶ小さな子、その子の目線までしゃがみ手を握る。
「大丈夫、必ずボーダーの人が助けにくるよ。」
「本当?」
「うん、必ずくるよ。」
そう信じて励ます。
本当は私だって怖い。
泣いてしまいたいぐらい。
でも守られるのも性に合わない。
瓦礫を手近にあった鉄パイプでこじ開ける。
テコの原理を使い少しでも。
「ふんぬー!後、少し!」
人が通れるほどの穴ができそうになった瞬間外から声がかかる。
「大丈夫ですか?
今どかすので離れててください!」
その声は誰よりも頼りになる面倒見の鬼で私の最高の親友のものだった。
三雲君は瓦礫をどかし避難誘導をする。
「早く、シェルターへ。」
瓦礫の中で出会った小さな子の手を引き私も彼の後をついていく。
河原の土手まで行くと上空を占拠していた化け物が川に落ちていた。
危険は去ったということで町の人々は皆、彼を賞賛するが彼は照れながら謙遜している。
そんな時に橋の上に木虎さんを見つけて彼は振り返る。
「彼女です皆さん。
彼女が近界民を倒してくれたんです。」
皆、口々に木虎さんを賞賛するが不満そうなご様子。
私は軽く手を振ると遊真っちが気がついたのかこっちに振り返してくれる。
「おっ、ツユノじゃん。」
「遊真っち、さっきぶり。」
「そっちはどうしたんだ?」
「夕飯の買い出しに来てたら巻き込まれちゃって…。」
私が苦笑いで返すとそれは災難だったなと笑い返してくれる。
これで笑いあってめでたしめでたしとも行かず、商店街の人達は口々に被害を訴える。
それに狼狽える三雲っちに変わって木虎さんが答える。
「近界民による新手の攻撃です。
詳しくは近々、ボーダーからの発表があると思います。
損害の保証に関する話はその時に。」
キリッとさっきの不安そうな顔はなかったかのように澄まして答える彼女。
その後、蜘蛛の子を散らすように解散となった。
「じゃあね、三雲っちに遊真っち。」
「嗚呼、気をつけて帰れよ雛菱。」
「また明日な、ツユノ。」
二人と別れて隣町のスーパーを目指す。
今日は飛んだ災難だった。
同時刻、迅と龍樹はというとイレギュラーゲートの対処に追われていた。
「こちら雛菱、標的の沈黙を確認。」
オペレーターに任務の終わりをつけると穏やかな声で三毛島隊のオペレーター、小湊千聖が返事をする。
『うぃーお疲れでーす。
龍樹先輩、そこに反応はもうありませんから帰って来てくださーい。』
相変わらず緩いなとオペレーターである後輩にため息をつく。
「では迅先輩、あたしはお先に失礼します。」
ベイルアウトしようとすると手を掴まれて止められる。
「ちょーと、待った。」
困ったように笑う彼。
サイドエフェクトで考えを読むとどうやら上に龍樹が呼ばれてるらしい。
「そういう事なら合流した時に口で言ってください。」
「口で言っても龍樹逃げるじゃん。」
「逃げませんよ、城戸さんのあの目つきが苦手なんですって。」
暫く言い合いをしていると迅のインカムに通信が入った。
『聞こえるか迅、本部に龍樹とともに来いってさ。』
「はいはい、実力派エリートの力が必要ですか。
じゃあ、後輩共々行きます。」
通信の相手は恐らく林藤支部長だろう。
二人して本部に行くと迅は人望に恵まれておりあっという間に人だかりができる。
その人だかりを避けて前を歩くと見知った顔に声をかけられる龍樹。
「よっ、雛菱ちゃん。元気?」
「おかげさまで、犬飼はこんな所で油売ってていいの?」
同級生の犬飼澄晴に呼び止められ眉をひそめる。
「いーの、いーの、ちょうど模擬戦でもしようかなと思ってたんだけど今暇?」
暇じゃ無いと断ろうとしたら後ろから肩を引かれて後ろに倒れかける。
振り返るとさっきまで人だかりに囲まれていた迅がいた。
「悪いね犬飼、俺らこれから城戸さんに呼び出されてるからさ。」
「ふぅん、呼び出し…ね。
じゃあ、仕方がないな。またね、雛菱ちゃん、迅さん。」
含みのある言い方でヒラヒラと手を振って去る犬飼を見送り二人は二階を目指す。
ふと前方に本部長補佐である沢村響子が重そうな荷物を持って歩いている。
持ちましょうかと龍樹が声をかける前に迅がすかさず彼女の尻を触った。
「ぎゃっ!迅くん!」
振り返り様に沢村は顔を赤くして迅を睨みつける。
「やー沢村さん今日もお美しい。」
「こんにちは、沢村さん。
先輩が多大なるご迷惑を。」
「…最低、セクハラよ!セクハラ!
龍樹ちゃんの目の前でよくやれるわね!」
「まあまあ、お詫びにこれ持つよ。
龍樹に触れたら沢村さんより厳しいからなぁ。
沢村さんも上に行くんでしょ?」
「そうだけど…龍樹ちゃんからも何か言って!」
「はぁ、先輩、もうこういうことは自重してください。」
ジトリと龍樹が睨むとへらへらと笑う彼。
「はっはっは、俺にとってはこれは挨拶だから。」
「挨拶だからじゃないでしょ!」
沢村のローキックが炸裂するが当ててみろと言うように軽く避ける。
「はぁ、先行ってますよ。」
「怒んなって。」
「怒ってません。先輩に呆れてるんです。ねぇ、沢村さん。」
「そうね、迅君はもう少しデリカシーというものを学んだ方がいいと思う。」
そう行って三人はエレベーターに乗り込み会議室を目指す。
「迅悠一、お召しにより参上しました。」
「同じく、雛菱龍樹、参上しました。」
二人が揃うと城戸司令は会議を始める。
迅は三雲の隣に座り、龍樹は右隣に座る。
今回の議題はイレギュラーゲートについてと先の三雲の処分についてだった。
(おそらく私が呼ばれたのは三雲君の考えを読む事だろう。)
龍樹は右隣の彼を盗み見る。
妹の同級生ということは何度か聞いていたが無茶をする様な少年には見えない。
むしろ彼は考え無しに行動する人ではない、少なくとも妹からはそう聞いている。
「雛菱隊員、三雲隊員に触れなさい。」
城戸司令が冷たく言い放つ。
嗚呼、この人のこの目が苦手だと龍樹は奥歯を噛みしめる。
「失礼します、三雲さん。」
そう一言、断りを入れて間髪入れずに肩に触れる。
妹達の通う中学校で何が起きたのか、また、禁止区域のトリオン兵が誰に倒されたか。
記憶を読むことはできないが彼の考えが流れ込む。
どうやら、全て彼の力ではないらしい。
協力者がいてその人は恐らくボーダー隊員ではない。
その協力者を必死に庇おうと彼は考えている。
降格、或いは除籍処分も覚悟の上でここに立っていると強い意志を読み取った。
今ここで城戸司令に報告したら余計に彼の立場や背後にいる人物を危険に晒してしまう。
それだけは龍樹の意思に反すると嘘をつく。
「彼は彼自身の判断を悔やみ反省してます。
彼が救出した行動は考え無しではなかった様で情状酌量の余地はあると考えられます。」
龍樹の一存ではどうにかなるものではない。
だが、一隊員として彼の勇気を妹の友人として彼の優しさを見過ごすわけにはいかない。
「ほぅ、では、反省をしていればなんでも許されると…ボーダーのルールを守れない人間は私の組織に必要ない。
三雲君、今日と同じことがことがまた起きたら、君はどうするかね?」
「それは…。」
言い淀む三雲に雛菱は歯噛みする。
これではまるで尋問の様だ。
だが三雲は硬い意思を示した瞳で城戸司令に意見する。
「…目の前で人が襲われてたら、
…やっぱり助けに行くと思います。」
口々に彼を非難する意見が出る。
だがメディア対策部長である根付は議題を変えようと躍起になるが流れは変わらず。
それを見かねた林藤支部長は迅に話を振る。
イレギュラーゲートの原因解明とその被害の復興。
スポンサーが手を引かない様にボーダーの下部の引き上げ。
やることは山積みだが彼は三雲の処分と引き換えにそれらを請け負うと宣言した。
「…彼が関わっているというのか?」
「はい、俺のサイドエフェクトがそういってます。」
「…いいだろう、好きにしろ。」
会議は解散したが迅は即座に根回しを開始する。
毎度ながら器用なものだと龍樹はぼんやりとその様子を横目に会議室を去る。
三雲は三輪に呼び止められ質問に答えた。
そしてその後、足早に去る、龍樹を呼び止めた。
「あ、あの、さっきはありがとうございます。」
「お礼を言うほどのことではない。
では、失礼。」
そう突き放すとタイミングよく迅が口を挟んでくる。
「こらこら、龍樹、誤解を招く様な別れ方をしない。」
「えっと…事情はよくわかりませんでも僕が助かったのは迅さんと雛菱さんのおかげです。」
迷いのない瞳に龍樹は彼の意思の強さと誠実さに自分が恥ずかしくなった。
何故こうも彼は臆さず自分の考えを訴えることができるのだろうか。
その勇気に感化され龍樹は少しだけ勇気を出してみることに。
「…改めて、貴方の勇気は賞賛に値します。
その勇気を忘れずに、だけど周りをもっと頼って…あたしが言えた義理じゃないけど。」
そう言い残すと三雲はあっけにとられた顔で龍樹を見つめる。
「はい、あの、C級の三雲修です!
雛菱ってもしかして、露乃…さんのお姉さんですか?」
「妹から話は聞いています。
雛菱龍樹です、よろしく。」
無愛想に龍樹が名乗るとホッとした様に三雲は胸をなでおろす。
「露乃さんとは仲良くしていただいてます。
こちらこそ、はじめまして三雲修です。」
自己紹介もそこそこに迅は三雲にこれから忙しくなることを告げ、去っていく。
その後を龍樹も足早に追うのであった。
「メガネくん、いい子だったでしょ。」
玉狛へと帰る道で迅は振り向き様にいう。
「…ええ、妹の友人がいい子で安心しました。
ですが、彼は…。」
龍樹がサイドエフェクトで読み取ったであろう彼の脆い部分を迅は悟った。
「メガネ君がこれから先、多くの人と出会うことでそれは改善するよ。
龍樹が心配することじゃない。」
「…そう、ですね。」
歯切れの悪い返事に迅は優しく頭を撫でる。
かつての後悔しかないお人好しな自分と三雲を重ねてるのだろう。
目の前の人に裏切られて彼が絶望してしまわないか。
そう考えているのが迅にはわかる。
「気負う必要なんてないんだ。
もし、メガネ君が迷ってたら手を差し伸べればいい。
な、龍樹。」
「はい、ところで迅先輩、いい加減撫でるのやめてもらいませんか。
夕飯の事を考えながら撫でられるのは癪です。」
「あっはっは、バレたか。
今日は小南のカレーらしいぞ。」
そう言いながら彼は端末機を片手に連絡を取る。
活発でちょっと騙されやすい友人が作ったカレーなら間違いなく美味しいだろう。
口元を緩めて龍樹と迅は玉狛へと足を進めるのであった。
To be continued
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