※体育祭以降の話。
※まだ互いを意識し始めの頃。

寮の買い出しに駆り出されて雫と共に帰路を歩く。
商店街の至る所に七夕という文字を見かけて足を止める。
「どうしたの焦凍君?」
「…いや、なんでもねぇ。」
七夕という行事は知っているが参加したことはいつの日だったか。
短冊に願いを書いても自分で叶えなきゃ意味がねぇ。
「嗚呼、七夕かー。
折角だし、何か書いてから帰ってもバチは当たらないよ。」
そう言って荷物を持つ反対側の手を彼女は取り俺を引いていく。
幼い頃の記憶がダブって一瞬怯む。
そういえば小学生の時もこうして彼女から声をかけられ行事参加をしていたっけ。
商店街の休憩スペースに簡易ではあるが竹と短冊の置かれた机がありご自由にどうぞという立て看板があった。
短冊を選んでペンを手に取る。
さて、どんな願いを書こうか。
隣の彼女を見るとサラサラと書いてもう既に紐を探している様子。
「早いな。」
「うん、ヒーローになることは自分で叶えなきゃだし、こういうのは自分の願いっていうよりも他人の願いの方が良さそうかなって。」
他人の願いか、一理あるなとぼんやりと母さんの事を思う。
自然とペンが進んで願いを書く。
「よし、書けた。」
彼女も書き終わって笹に吊るす。
チラリと見えたが家族の健康を願う当たり障りのない願いだった。
俺も短冊を吊るし、荷物を持って帰るかと声をかける。
時刻は17時。
そろそろ門限も近い。
夕闇迫る道を歩いて何気ない会話が弾む。
ヒーローになる事は自分で叶えるべきだと彼女が言った事を不意に思い出す。
「なぁ、雫、お前はお前自身の願いってあるか?」
体育祭を経て、彼女も俺も価値観が変わった。
だからこそ今この願いを聞かなければならないと思う。
「んー、勿論、私なりのヒーローになる事は大前提。
他に願うなら強いて言うなら…。」
「言うなら?」
「焦凍君ともっと仲良くなりたいなって。」
「そうか。」
恥ずかしそうに顔を真っ赤にして顔をそらす。
思わず可愛いと握っている手が強張る。
「そ、そういう焦凍君も何か短冊に書いてない願いとかあるの?」
そう聞かれて思考が一瞬停止する。
ヒーローになりたい事は俺も同じだ。
だがなんなんだこの気持ちは。
雫を見ているとドキドキとして妙に苦しい。
「…あるな。」
ある事にはあるがまだ答えを出すべきではないと頭の片隅で警鐘が鳴る。
「教えてよ。
私だけがなんか損した気分になるから。」
唇を尖らせていう彼女にフッと笑って誤魔化す。
いえない代わりだと彼女の反対側の荷物も持って早足に前を歩く。
「あー!
そうやって誤魔化すの焦凍君の悪い癖だよ!」
「誤魔化してねぇ。
唯、自分で叶えるべきだと思ったからだ。」
振り向いてそういうと彼女は不満げな顔で俺の後を歩く。
「なんか、意地でも言わせたくなってきた。
私に隠し事なんて今までなかったのに!」
反抗期だと騒ぎ立てる彼女。
まだ、この関係を続けたいと思うのは贅沢な願いなのだろうか?