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三輪には言えない

人を寄せつけない雰囲気を醸し出す黒くて丸い頭を見つけ、駆け寄りぽんぽんと肩を叩く。

「三輪くん!こんにちは」
「……苗字か」

相変わらず険しい顔をしているが例の近界民、もとい空閑くんの入隊の件からだいぶ心の整理をすることが出来たのか、病的だった隈は薄くなっている。それに今日は心做しかいつもより上機嫌に見える。

「何か嬉しいことでもあった?」
「……ああ、今日は防衛任務の後東さんに焼肉に連れていってもらう」
「いいねえ、おいしそう」

旧東隊のみんなに可愛がられる三輪くんは、本来の弟気質もあるのかいつも背負っている重責が少し軽くなったように見える。これも東さんの、若しくは焼肉のお陰なのかもしれない。
……幾分か雰囲気の和らいでいる今なら、言えるだろうか。

「……ねえ、三輪くん」
「なんだ」
「話があるんだけど、時間大丈夫?」
「……?少しなら」

私の真意を図りかねているのか、怪訝な顔はするが三輪くんは頷いた。深呼吸をするがドクドクと早鐘を打つ心拍音が、緊張から後頭部にまで響いている。
これはきっと、隠せば隠すほど三輪くんに嫌われてしまう。そんなに時間は経っていないはずなのに、沈黙が嫌に重くて一瞬が永遠のように長い。早く言わなければ、と思うほどに喉が閉まって声が掠れる。私の様子を不審に思った三輪くんが「……苗字?」と声を掛けたと同時にヴヴヴ、とバイブ音が響いた。

「……ぁ、」
「すまない、時間だ」
「……ううん、気にしないで!そんな大した話じゃないし」
「そうか……じゃあ、また」
「うん、またね」

ひらひらと手を振りながらなんでもないですよ、という顔をするのはきっと上手くいった。三輪くんは私に疑問を抱くことなく、防衛任務へと向かって行った。チラッと見えた三輪くんの目には、依然として近界民への憎しみは消えていない。
ぽつんと1人になったところでドっと力が抜けて、大きく息を吐きながらその場に座り込んだ。あの憎悪の瞳が自分に向けられたら、と思うと恐ろしくてたまらない。三輪くんであれば、尚更。

「はー……、なんでこうなっちゃったんだろ」

三輪くんへの自分の気持ちの終着点を探す為にも、私が近界民であることはまだしばらくは言えそうにない。

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