CCGアドゥシール


「川瀬一等。聞いたぞ。また一人で片づけたらしいな」
「……お耳が早いんですね、宇井特等」

背後から突然めんどうなアイツに話しかけられて、危うく「ひぃっ!!」と言ってしまうのをなんとか誤魔化し、私は顔面に笑顔を張り付けて同期を振り返った。
若干ひきつったかもしれないけど。バレないでしょう。

「その笑い方やめろ。ひきつってるぞ」

バレてるんかい……。
同期で誰よりも出世の早い、だけど超のつく真面目な郡くんの辛辣とも言える物言いに、私は今の短時間のうちに結局二度も笑顔がひきつるのだった。

「郡センパイ。そんな言い方してたら女の子にモテませんよ〜」
「え?なにが?」

無自覚。ええ、分かっていましたとも。

「ハイル。久しぶりだね」
「こんにちは、希咲さん」

相変わらずポーっとした雰囲気で私に手を振るハイルに、手を振り返す。

「希咲、私が言いたいのはな。捜査官として駆逐数を上げるのは当然のことだが、一人で功績を上げるのではなくチームとしての連携を、」
「確か平子班で追ってた喰種って、レートS〜でしたよね〜」

郡くんのなりかけたオカンモードに、ハイルが割って入る。

「しかも、一気に複数駆逐したんですよね〜」
「まあね。幸運なことにターゲットの隣にプラス一体悲運な喰種が居てね」

私は郡くんは見ないようにして言った。

「だそうです郡センパイ〜。問題ないと思いません〜?一体でも駆逐できるほうが良いのですしー。能力のある人がどんどん駆逐すべきだと私は思います〜」
「ハイル。私が言ってるのはそういうことではないのだ、」
「あ、そろそろ時間ですね〜行きましょう郡センパイ〜希咲さん、また〜」
「うん、ハイル」

何か言っている郡くんはハイルに引っ張られて行ってしまった。
ハイルグッジョブ。今度ポッキーのたくさんささったチョコレートパフェを奢ってあげるからね。
二人を見送り、私は郡くんに捕まる前に向かっていた目的地へと歩み始めた。

「班長〜?」

あれ、いない。オフィスはもぬけの殻だった。班長を、大胆にもランチにお誘いしちゃおうと思ったのに。
デスクにいないならタバコ中かな?と足をそちらへ向けつつ。喫煙ルーム近寄るのヤだなぁ。私は嫌煙家なのだ。

「川瀬じゃないか」
「亜門さん」

いつの間にか、先輩の亜門さんが背後に立っていた。
今日はよく背後を取られる日だなあ……。振り返りつつそんなことを思う。
亜門さんは背が高すぎて、目線を上に意識しても彼の姿の一番に視界に入るのは、いつもネクタイの上から着けているクロスのロザリオ辺りだ。

「これからランチに行くんだ。どうだ良かったら一緒に」

班長は、この際もういいや。探しに行ってたらお昼休みがなくなっちゃうよね。

「良いですね。行きましょう」
「そばにうまいカレー屋があるんだ。今日は火曜だからナン無料デーだぞ」
「良いですね!行きましょう!」

なぜか亜門さんが笑った。ていうか、辛いの苦手じゃありませんでしたっけ?まあ良いや。

「早く行きましょう亜門さん!」

私は亜門さんの袖口を引っ張った。
火曜日はナン無料デーのカレー屋さんは、局から徒歩で行ける近場だった。これは良いところを教えてもらった。

「こんな近いところにあるのに、全然知りませんでした」
「しかもおいしいだろう?」
「はい!人生至上一番だと思います!」
「大げさだなあ」

笑う亜門さんに私はいたずらっぽく笑顔で答えると、ムチ、とおいしすぎて進む、既に何口目かのナンを口に頬張る。

「あ、この何は別にナンとはかけていな……」

RRRRR

……この面白ジョークを遮った着信音は。平子班からの誰かだ。

「鳴ってるぞ」
「はひ、ひはしおはひほ(はい、暫しお待ちを)」

急いでナンを飲み込む。お行儀が悪いことを私にさせるのはダ〜〜レ〜〜ダ〜〜

「はい、川瀬一等捜査官です」
「お、休憩中のわりに直ぐ出たな。今日は寝てなかったのか?」
「ミッチー。私の面白ジョークを台無しにしたこと覚えておいてね」
「へ?」
「それで要件は?」

そもそも、お昼休憩中に私は寝たことはない。一度チョッカイを出してきた職員とのことで、言い訳で「寝てた」と使ったことくらいしかない。
要件を聞いてる隙に飲もうと、水の入ったグラスに手を伸ばす。

「ランチどうかと思って」
「もう亜門さんと済ませ中」
「なにっ!?」

本当に、なんでかけて来たのよミッチー。一緒に入ったお昼休憩も、あと30分もなく終わるというのに。まだお昼も食べてないなんてミッチーてば。

「そういうことだから。また後でね」
「待て待てっ」
「なに?」

電話している間にも着々と冷えて行くカレーへと、私の意識は逸れ始める。

「班長が探してたぞ?」
「班長が!?」

ガタッ。思わず立ち上がってしまう。班長が私を探してくれるなんて!
すると目の前で、座れ、と人目を気にして身振りだけで言う亜門さんに、私は身振りですみません、と言っておとなしく椅子に腰を下ろす。

「それでミッチー、班長なんて?」
「まあ俺と同じ要件」
「ランチ!?」
「おいおい。なんだこのリアクションの差は」

ああ班長!私をランチに誘おうとしてくれたなんて!私と班長は考えることが一緒なのですね!これはもう運命ですよね!?

「まあ、もう済ませてしまったこと伝えておくわ」
「うん……。また誘ってください」
「え!?」
「と、班長に伝えて」
「そりゃないぜ、希咲ちゃんよ〜」

最後は笑って電話を切った。

「平子班か?」
「はい、ミッチーからでした」
「ミッチー?;」

亜門さんはマジメだから、困惑した顔をしていた。その顔が、なんだか笑えた。
ああ、それにしても。こんなこと言い合っているといつも思う。CCGに入って良かったと。

普通、楽しかったなって後で振り返って思い出になってるものだろうけど、こういう職種上。いつ死んでもおかしくない場所に身を置いているから。一日一日を大切にしているからそんな風に思うんだと思う。