CCGアドゥシール


今日は、私のクインケを作ってもらうために有馬さんとクインケ製造に来た。

「前より良いものになりますよ」

少しだけ話をして、その場を後にした。

「……」
「希咲」
「……はい、なんですか有馬さん」

遅れてしまったことを自覚しつつ、笑顔を繕う。

「落ち込んでるな……清光は残念だった」
「……はい」

有馬さんと並んで帰る道を、俯き歩く。背後から浴びる夕日のために、正面に影ができている。

「……私にとって、清光は初めていただいたクインケなんです。愛着があります。それなのに、私考え事なんてして……」

クインケ、加州清光(鱗赫-Rate/A)は本当にお気に入りだった。扱いにもとても慣れていた。あの時、こうしていたら、こうすれば。たらればを言っても仕方がないけど、自責の念に苛まれる。悔やまれる。

「飲みに行くか」

ポン、と有馬さんの大きな手が頭に置かれた。見上げたら、有馬さんは優しく微笑んでいた。

「希咲は酒が好きだからな」

そんな風にわざと意地悪な笑みを浮かべて見せて、私を元気付けてくれようとしてくれる。それが、有馬さんの優しさ。この2年一緒にすごしてみて分かったこと。
そんな有馬さんに、思わず笑みがこぼれる。

「そんな、人をアル中みたいに」
「希咲はなんでもイケるんだ。充分アル中だろう?」

ちょ……。きょとん顔は、冗談に見えなくなりますから……。
局から少し離れた、雰囲気の良いバーに案内された。有馬さんってこんなとこ知ってるの?カウンターしかない席に、並んで腰かける。

「有馬さんは、何にします?」
「お前はいつものだろう?」
「ふふ。じゃ私はカルーアミルクで」
「今日は俺も同じにするかな」
「珍しいですね、生ビールじゃないなんて」
「いや、最近腹が……」
「え!?」
「冗談だ」
「とか言って本当にヤバイんじゃ…ちょっと見せてくださいw」
「ははは。今日は希咲に付き合おうと思ってな」
「ふふふ……」

軽くおつまみも摘まみつつ、談笑に花を咲かせる。カルーアミルク、シャンパン、白ワイン、ベリーモヒート、芋焼酎お湯割り、ハイボール。私はだいぶ出来上がってきていた。

「希咲は本当に強くなったな」
「お酒が、とか言うつもりじゃないですよね?」
「当然、職務のことだ」
「……えへへ。有馬さんに褒められるとうれしいです」
「否定しないんだな?」
「ええっ。なんですか、てっきり褒めてもらえたのかと思ったのに!」
「俺は褒めない」
「あっそれ、ハイルからも聞きましたよ」
「俺が褒めないと?」
「はい」
「そうか。だが、希咲は強くなった。筋が良くなったな」
「……ふふ。私の憧れの捜査官は、有馬特等なんですよ」
「どうした。いきなり特等なんて着けて」
「最高の階級ですから。敬意を込めて」
「希咲も昇格すれば良いだろう」
「一等のままが良いです〜」

上等になったら、平子班長と一緒にいられなくなっちゃう。オレンジピールの香るショコラをお皿から摘み上げる。

「タケの班に戻るためか?」
「!?」

思わず摘まみ上げたオレンジショコラを指から落とした。

「俺が気づいてないと思ったか?」

私の驚いた表情に、目をちょっと見開いてる有馬さん。バレバレかぁ……参っちゃったなあ。

「そんなお前に朗報だ」

なんてことない、と言う風に、有馬さんは続けた。

「次の異動で、希咲はタケの班に戻る」
「本当ですか!?」

願ってもいないことに、私は思わず大声を上げた。有馬さんはシーっ、と唇に人差し指を立てた。

「すみません……」

私は椅子の上で身を縮める。私は小声にボリュームを下げる。

「あの、でも次の辞令って、」
「ああ直ぐだな」

パアッ、と顔が華やぐのが自覚できた。でも抑えられない。やったー……ようやく班長と一緒にすごせるようになる……。平子班のホープとして戻れます!あ、平子班のみんなはもう知ってるのかな?

「……そんなにうれしいか?」

声をかけられて、一人で百面相していたことに気が付いた。ちょっと恥ずかしくなる。でも。

「やっぱりうれしいですよー!」
「ふーん。憧れのリスペクトしてる俺がいる班に来るとき以上に?」
「え……」
「……」
「……」

暫く互いを見つめ合ってしまった。……でもやっぱり、一本調子の有馬さんの表情から、感情を読み取るのは難しい。

「希咲さぁ……」

有馬さんは、顔の前でクロスさせていた手を解いた。そして、有馬さんの手が。ゆっくりと私の背に回され少し引き寄せられた。

「タケなんて忘れれば」

私が何かするより先に顎を取られ、有馬さんが顔を近づけてくる。
手でつっぱねたけど簡単に手を取られ、私は思わず目を閉じる。

「ダ、ダメ、です……っ」
「タケは気にしないと思うよ」
「……!」

私の肩がビクリとはねた。反射的に目は開いていた。互いの唇まで数センチ。私の視界はすでに滲んでいる。寸でのところで、有馬さんが止まった。

「……」
「……」
「そんなに、タケが好き?」
「、……」
「希咲にキスすることができるのは、目の前の俺なのに」

残念、と言って有馬さんは顔を離した。私は解放される。
有馬さんを見ると、私を見つめる表情は悲しげだった。心が痛む。でも私は平子班長が好きだとハッキリ言わなきゃ。

「……有馬さん、私、!」

唇に何かを押し付けられた。スティックに刺さったオリーブだった。
遮られた……?
有馬さんを見ると、ニコリと微笑んだ表情は、いつもの有馬さんだった。

「酔っぱらってるね?そろそろ帰ろう」

それは、有馬さんと私、どちらのことなの。
有馬さんの上着を肩にかけられる。私は有馬さんから視線をはずし俯くと、おとなしく「はい」と返事をする。そして素直に腰を上げるのだった。
有馬さんは店を出るとタクシーを拾ってくれて、私を自宅まで先に送って帰って行った。

「……有馬さんこそ、酔っぱらってる」

走り出したタクシーを見送りながら、口からこぼれていた。

「……」

“タケは気にしないと思うよ”。

「……」

その言葉を聞いて、涙がにじんだ。班長と親しい有馬さんが、班長は私に脈ナシだと伝えてきたように思ったから。
でも有馬さんは酔っぱらってたんだよね?有馬さんが私にキスしようとしたことは水に流します。私はこれまで一度だって、お酒で記憶を失くしたり介助されたことはない。でも有馬さんのような人でも、お酒に飲まれることもある。そういうことだよね?

週末。
新しいクインケができたと連絡が入り、私が異動する前に間に合った。
そして、何事もなかったような有馬さんと、二人で受取に行った。

「これだよ。どうかね」
「わあ……!」

見た目はまるで清光のようなのに、スイッチにてモードチェンジで銃のように弾丸を発射するクインケへと変貌を遂げていた。

「気に入ってもらえたかね?」
「はい、とっても!」
「それは良かった」

私は教授にお礼を言う。

「名前決めなきゃ!清光の変化形だから、清光つながりにしたいなあ。私の二代目クインケ……二代目清光……うーんでも銃もついて遠距離もカバーできるようになってかなりパワーアップしたし……決めた!」
「何にしたんだ?」

ニコニコしている教授の隣で、有馬さんが私に聞いた。

「大和守安定!」
「やまとのかみやすさだ?」
「はい!」

すると有馬さんが、考える仕草をした。

「なるほど。加州清光に続いて、新選組の沖田総司の刀の名前だな」
「ご名答です!」

私はクインケを抱きしめた。

「良かったな。希咲」
「はいっ!」

私は前回来た時とは真逆の、ルンルンでNewクインケを持ち帰るのだった。週明けはついに、平子班に戻る日。