ジョゼ寺院




ユウナがチョコボ騎兵隊のルチルさん達と談笑している側で待つキマリんのかたわら、ジョゼ寺院へ続く石橋の下に、川が見えた。

「あっ綺麗〜水が透き通ってて底まで見えるよ!ねぇアーロン!」

すぐ後ろに居ると思っていたアーロンは居なくて。

「アーロン?」

少し後ろをティーダと来ていた。そばまで来たアーロンを待って、声をかける。

「どうしたの?何かあった?」
「風景を見ていた」
「ふぅん?」

……ま。ここまで明るくしなくてもいいか。キマリんが言ってたのも、ずっと落ち込みすぎるな、って話なだけだもんね。アーロンと寺院への道を歩きながら、ユウナが談笑しているルチルさん達を振り返る。ルチルさん達無事で良かったな、と。ジョゼ寺院の入口に到着すると、ちょうど地面が揺れて、ジョゼ寺院の建物の一部の石が大きく開かれ、周りを石が宙を回っていた。

「すご〜い……」

スフィアプールといい、幻光虫や異界送り、白・黒魔法、それにこの寺院。それだけじゃないけど。スピラは不思議で溢れてる……スピラでは普通の事なのだろうけど。

「あの雷キノコ岩はね、召喚士が祈り子様と対面したときだけ開くの」
「へ〜!」
「誰か他の召喚士が来てるって事だな」

ルー姉がしてくれた説明に、ワッカも隣で腕を組んだ。

「よーし!行くッス!」

……ちーだ君。もうそれ口癖でおk?
スピラに来て初めて入る記念すべき寺院。ジョゼ寺院へ入ると、ちょうど正面のソレっぽい長い階段から、男の人が3人下りて来た。……1人は小学生くらいの可愛い男の子だった。イサールと名乗る優しそうなこの人も召喚士らしい。さっき私達が到着したときに雷キノコ岩を開けたのは、イサールさんだったのね。イサールさんとユウナが鼓舞し合うのを見届けて、そのまま皆に着いて長い階段を登ろうとしたとき。イサールさんのガードの小学生くらいじゃない方、マローダさんに引きとめられた。

「あんた綺麗だな。名前は?」

ナンパデスカ。

「………」
「ああ、すまんすまん。警戒しなくていい。できればもうちょっとアンタと話していたいが、お互いガードだ……名前だけ、教えてもらえねーか?」

……困ったな……

「おい」

アーロンの声に振り向くと、ぐいっと手を掴まれ、アーロンの後ろに守られるように引かれた。

「うちのガードに、勝手しないでもらおうか」
「……」

アーロンとマローダさんの顔を、アーロンの後ろから交互に見交わす。

「……へっ。なーんだ。伝説のガードのアーロンさんにガードされてると来ちゃあ、迂闊に手ぇ出せねえな」

いや、……いやもういい。ツッコミめんどくさい。

「本来ならうちのガードに来てもらいたいとこを名前聞くに止めたんだぜ?名前教えてくれるだけいいじゃねえか」
「生憎だが、こいつは特別でな……名前だろうと教えてやるわけには行かんのだ」

そう言って私の肩に手を回し、マローダさんに背を向けたアーロンにされるがまま、私は “試練の間” へと入る。マローダさん達が見えなくなるところまで来て、ようやくアーロンの手が肩から離れた。

「アーロン、」

私が頭一個分上にあるアーロンを見上げると、先にため息をつかれてしまった。

「お前は本当に気をつけろ」
「へ?」

アーロンは頭をふりふりそれ以上言わなかった。

「……」

本当はアーロンの垂らされた赤い袖を引っ張りたかったけど。

「……ありがとう」

先へと進む背中に、小さくお礼を言った。
奥まで入ると、突き当たりは行き止まりだった。というか左右上下、今入って来たとこ以外、行き止まりっぽかった。

「よっし!ガード全員集合だな!」
「はい!」

ワッカさんの言葉に、ガードって響きがなんか一体感というか連帯感というか、みんなと仲間なんだ、という感覚が身にしみて、嬉しくなってアーロンの横で手を上げた。ら、なぜかみんなに笑われた。

「わかったわかった、はねんなチビ」

とかワッカにクックと笑いながら言われた。確かにパーティで一番小柄だけど。ショーック。

「よろしくお願いします」

ユウナの声で、試練開始。

「コレをはずしたら良いッスか?」
「そうよ。ワッカ、ソッチのも持ってきてくれる?」
「ルー、コレはココだっけか?」
「違うソレは後で、ソッチが先にココ」
「ルールー、こっちのスフィアセットOKだよ」
「ありがとう、ユウナ」
「ティーダ、祭壇をソコまで押してくれる」
「OKッスよルールー!」

あれこれそれどれw祭壇すごい重そう。いや、っていうか!

「綺麗ー!」

ルールーが持ってる光る球体に興味津々。

「スフィアって言うのよ」
「私もしたい!」

というか触りたい。どんな材質でどんな石(?)なのか、冷たいのか、直に手を取って……!

「いいわよ。じゃあ茉凛はコレをソコの壁にはめて」
「りょーかーい!」
「それじゃキマリ、お願い」

キマリんは光る石係り。笑

「向こう岸に飛ぶのもティーダお願いね」
「任せるッス!」

なかなか楽しい試練の間。

「あっ全部光り灯ったよ!」

昇降機で上へ昇っても、試練は続行される。

「次は手分けしてできるわよ。5人位置に着いて」
「スタンバイ、オッケー!」
「こっちもッス!」
「じゃあ押して」
「よっ……と」
「あ!宝箱出たッスよ!」
「成功ね」

あーじゃないこーじゃない言いながらなんとかクリアした試練の間。楽しかった!出現した階段を昇ると、

「ここは……?」
「控えの間だ。ここで暫く待つ」
「えへへ。茉凛は初めての寺院だもんね。行って来るね」
「行ってらっしゃい、ユウナ」

私がアーロンの左隣に落ち着き、ユウナが奥の部屋へ入ったときだった。

「あら、またあなたたち?」

あ、ミヘン・セッション決行前にキノコ岩街道に通してもらえなかった召喚士のドナさん。

「相変わらず、頭数だけは多いわね」

む。

「!」

突然ドナさんのガードの人が近づいて来た。思わずアーロンの後ろに隠れる。アーロンの服の裾を掴んで顔だけ出して様子を伺う私に、アーロンはアイコンタクトで大丈夫だ、と言った。

「どうしたのバルテロ?そのオジサンに、なにか用?」

むっオジサンだと……!……とドナさんに火を噴いてみたところで、アーロンの後ろに隠れている私なんて怖くもなんともないか……。

「あんた……アーロンだな?」
「……?」

ドナさんから目を離し、目の前の大男に目をやる。

「だったらどうする」

え、え、

「握手……してくれないかアーロン……いや、アーロンさん!」

……コケるかと思った。

「俺、あんたに憧れてガードになったんだ!」

ビックリしたなぁもう。ただのアーロンのファンだったんだ。安心してアーロンの後ろから出て横に立つ。ってアーロン意外と普通に握手に応じるんだなあ。

「ありがとうございますっ!か、感激ですっ!!」

ドナさんの元にバルテロさんが戻ると、アーロンの顔を覗き込むように上半身だけアーロンの前に倒して笑いかける。

「良かったね!アーロン」
「ふん……」

アーロンは何も言わなかったけど、やっぱりうれしそう。

「大召喚士ブラスカ様を守ったガードをつかまえて、オジサン、とはな」
「もの知らずにも……ほどがあるわね」

ここぞとばかりに、ワッカに便乗して言い放ったルー姉……流石です。

「うわ〜……」

ティーダは引いてた。それから暫くは、アーロンに伝説のガードのことを聞いたりと、話しながらユウナを待つ。皆の様子を見てると、わりとバラバラだし立ってる位置もバラバラだけど、ティーダだけは動き回って皆に話しかけまわっていた。しまいには、

「あんたももうちょっと落ち着いてよね。恥かくのはユウナなんだから」

とルー姉に言われてるのが聞こえてきた。するとその時、床が揺れてユウナが出てきた。

「ユウナ、大丈夫?」

なんだかとってもヘロヘロで、すぐに駆け寄った。部屋の入口で控えていたキマリんよりも早く。

「ありがとう、茉凛#。大丈夫だよ。いつもこんな感じ……」
「ユウナ……」

お疲れ様。そう言ってユウナに肩をかす。

「持つべきものは、偉大な父親ね」

も〜あの人。虫の居所が悪いからって……ユウナに近づいて来るドナさんを見る。

「ガードの数はむやみに多いし。アーロン様まで味方につけて。それにシーモア様にも気に入られているみたいじゃない?ブラスカ様の娘、って肩書きがあると、違うわね」
「父は……関係ありません。私はひとりの召喚士として旅をしているだけです」
「あら、けっこうな事ね。でも、偉そうなことを言う前に、まず自分の足でシャンと立ったら?ガードに頼ってばかりだと、いざって時。痛い目見るわよ」

うーわ。何なのあの人。言うだけ言って、奥の部屋に入って行ったよ……。
翌朝。目が覚めてルールーと一緒に宿舎を出ると、アーロンとワッカとキマリんは既に外に居た。

「おはよう、みんな」

ワッカとキマリんに挨拶して、アーロンの隣へ行く。

「おはよう、アーロン」

アーロンは、いつも通りみたい。昨夜は、負傷者と、お亡くなりになった方々のことで、ガードの私たちもてんやわんやだった。

「よく眠れたか?」
「うん」

小さく笑ってジョゼ寺院への小道を眺める。まあ、昨日のミヘン・セッションを経てこれまでと同じように眠れるなんて、そんな筈はなくて。だからアーロンも聞いてきたのだろうけど。心配とかかけたくなくて。

「よっ!おはよッス」

宿舎からティーダが出てきた。私達を一周ぐるりと見回すと、ユウナは?とみんなに尋ねて周り、そして寺院へと入って行った。皆の様子も、何気ないいつもと同じように見える朝でも、これまでとは違う。あんなの目の当たりにして、一昨日までと同じ、なんて風には行かないよね……。ふと、足元に来たぴょこぴょこと長い耳を揺らして跳ねる動物に、屈んで頭を撫でる。

「サル、だ」

上から降ってきた声に顔を上げると、私が撫でる手元の動物を見ていた。

「サル」

どちらかと言うと痩せたモコナだ。

「可愛いね」

猫をなでるように首の下を撫でてやると、ゴロゴロと気持ち良さそうに喉を鳴らして目を閉じた。するとティーダに続いて、慌てた様子のユウナが寺院から出てきた。

「よ〜お、ねぼすけ!」
「ごめんなさ〜い!」

深々と頭を下げるユウナ。そんなユウナに、私はサルを撫でて屈んでいた体を起こし、アーロンと笑い合う。

「そんなに急がなくていいのに。ほら、寝ぐせ」

ルールーの言葉に、ユウナの手が髪へ飛んだ。可愛いなぁ。

「寝ぐせの召喚士なんて、みんなガッカリだぞ〜」
「起こしてくれればいいのに……」

ワッカが笑うと、拗ねたように言ったユウナが、何だか珍しくて、何だかユウナにもこんな面あるんだなって。

「声はかけたよ。でも口あけて眠ってたしね」

笑ったルールーに、私も釣られて笑いがこぼれた。

「むぅ〜……今日はなんだかみんな、イジワルっすね」

困ったように笑うユウナに、皆が笑った。すると隣のアーロンまで。

「あっ!アーロンさんまで!」

直ぐにユウナが反応した。

「さて。召喚士様の寝ぐせがとれたら、出発だ」

そう言って歩き出したアーロンの後ろを、笑って着いてく。無理に笑うのって、こんなに辛いんだ……。私の世界って、平和だなぁ。なんて思いながら。