シパーフの上にて




私から見て、十二時の方向から時計回りにルールー、ユウナ、キマリん、ワッカ、ティーダ、アーロンで腰掛けるシパーフの上。

「おい」
「ん?」
「見てみろ」

ワッカが、ティーダに顎で船下を指してティーダは言われた通りシパーフの下を覗き見た。

「なに?……あ!街が沈んでる!」

ティーダの言葉に釣られて私も覗き見た。大きな街が沈んでいた。

「1000年以上前の、機械の街だ」

ワッカが説明した。

「河にたくさんの橋をかけて、その上に街を作ったらしい。街の重さで橋がくずれて、河の底に沈んでしまったそうだ。ま、いい教訓だな。河の上に街を作るなんて、なんの意味がある?」

まったくですね。昔の人は何の意図でそんなことをしたのだろう。するとティーダがうーんと首をひねった。

「水がたくさんあって便利だから、とか?」

……小学生のようなお答え。すると、ワッカが首を振った。私は答えを期待してワッカに視線が集中した。

「うんや。ただその技術……力を試したかっただけだ」

試す?詳しい説明を期待して、引き続きワッカに集中する。

「エボンの教えだ。人は力を持つと、使わずにはいられない」

えーっ。何それ。私は思ったのと違った答えにガッカリした。間違ってないかもしれないけど、エボンの教えってなんでこう胡散臭いんだろう……。

「禁止しなくちゃキリがないって訳だ」

ワッカが説明し終えると、ティーダは席に腰を落ち着かせた。

「でもさ、けっこう機械使ってるだろ?スタジアムとか……そうだよな?」
「寺院がね、決めるの。この機械は可、あの機械は不可、ってね」

その答えをルールーが引き継いだ。

「どういう機械がダメなの?」
「ミヘン・セッションで見ただろ?ああいう機械だ」

私が質問すると、ワッカが腕組みをして頷いた。

「また戦争が始まるからね」
「戦争……?」

ユウナの言葉にティーダが首を傾げると、ワッカが引き継いだ。

「1000年以上前に機械の武器をたくさん使った戦争があったんだとよ。戦争の間も武器はどんどん強力になってな。街だけじゃなく、スピラそのものを……世界を破壊しつくす力を持つ武器も作られた」
「こわい……」

私は核のようなものを想像した。

「このままではスピラが無くなってしまうかもしれない。それでも戦争は終わらなかった」
「ど、どうなったんだ!」

ティーダの質問に答えたのは、意外にもユウナだった。

「突然 “シン” が現れて、街や武器を破壊した……。戦争は終わったよ……でもその代償として、 “シン” が残った」
「……」

ユウナの言葉に、暫し船上は重苦しい空気が流れた。

「な? “シン” は調子に乗りすぎた人間への罰ってわけだ」

ワッカがまとめるように言った。それもエボンの教えなのかな。でもだからって、と私は思った。変わらないのもどうかと思うけどなぁ……今のスピラのように。

「キツイ話ッスねえ……でも、機械が悪いわけじゃないだろ?」
「そう。使う側の、問題ね」

ティーダとルールーの言葉に、うんうん、と私は頷いた。

「アルベドみたいのが居るからダメなんだよな〜」

ワッカがそう言った瞬間だった。

「きゃあ!」

シパーフが大きく揺れた。

「座っていろ」

思わず立ち上がる私の腕を、隣のアーロンが座らせようと掴んだ。その時。

「きゃ!」
「ユウナ!」
「アルベドだ!!」

ユウナがアルベドに誘拐された!ワッカが叫ぶのと同時に、ティーダとワッカが船下へと飛び込んだ。

「ユウナぁ……」

アーロンに座らされた私は、ユウナが座っていた位置を見つめて情けない声を上げる。

「心配しないで茉凛。ワッカとティーダは、ユウナを必ず助け出してくれる」
「……うん……」

ルールーが安心させるように言ってくれた。アーロンから手は既に放された私は、安全な船上で俯くのだった。何もできなかった、って。キマリの知り合いが召喚士が消えるって教えてくれていたのに。

「……」

全然対処できなかった、私は、無力だ。私は膝の上で両手を握りしめた。すると、誰かが頭をポンとした。顔を上げると、アーロンだった。そっぽを向いている。

「……」

落ち込むな、って言ってくれてるのかな。アーロンの優しさに、私はなんだか心が軽くなった。ふと見ると、ルールーとキマリんが、ユウナを追いかけてワッカとティーダが飛び込んだところから下を覗いていた。二人とも、心配そうな顔をしていた。ワッカ、ティーダ、どうかユウナを無事に連れ戻って。
暫くして、ユウナを連れてワッカとティーダが戻ってきた。

「ユウナ!」

私は思わず駆け寄ってユウナに抱きついた。

「良かった……おかえり、ユウナ」
「心配かけてゴメンね、茉凛」

ユウナが優しく抱きしめ返してくれた。安心した私はユウナと席についた。

「まったく……アルベドのやつらめ!」

ワッカがドッカと腰を下ろした。とても機嫌が悪そう。ティーダも腰を下ろした。

「すいませんでした!もう大丈夫です!」
「ユウナ!」
「はいっ」

語気を荒げたワッカの発言でみんなに気を遣ったのだろう、ユウナが元気良く言うと、アーロンに咎められてしまっていた。

「ちっ!アルベドめ……なんだってんだぁ?ルカでのことと関係あんのか?あいつらユウナを襲ってどーする気だ!……あっ!試合に負けたハラいせか!……あっ!?ミヘン・セッション失敗のハラいせか!?」
「どうかしら……キマリの知り合いが言ってたでしょう?最近、召喚士が消えるって」

ルールーが言うと、ワッカは手をぽんっと打った。

「ああっ!それがアルベド族の仕業か!くっそう……アルベドめ……何考えてやがる……」

私はワッカの物言いに、少し悲しくなった。どうして、ワッカはそんなにアルベドを嫌うんだろう。そりゃ、連れ去ってユウナを怖がらせたのは許せない。それにしては、だ。

「……」

ユウナと、ルールーが俯いていることに気が付いた。私もワッカの物言いに悲しくなった。けどそれにしては二人はあまりにも……え?
まただ……また空気がおかしい。幻光河でティーダが“シン”を倒し終えたらみんなでまた来ようって言った時もだった。私には、知らないことが多すぎる。

「どーでもいいって」

突然ティーダが口を開いた。……こやつ、何か知ってるな、と直感した。後で聞き出そう。

「アルベド族のことをここで話しても、仕方ないだろ?誰が相手でもユウナを守る。それだけ考えて、俺はやるッスよ」
「そりゃ…………そうだけどよ」

ばつが悪そうなワッカ。一方、ユウナが嬉しそうにティーダに微笑んだのを私は見た。そのあとは、無事向こう岸まで何も起こらず着くことができた。