異界への階段で(R17)




二人で抱き合う。頭一つ分以上高いアーロンの胸板に顔を埋めて、心臓の音を聞きとるように耳を寄せて。

「アーロン……もしかして、アーロンっていつか……消えちゃうの……?」
「……ああ」
「……直ぐ……じゃない、よね?」
「オレの当初の目的は、ユウナのガードだからな。だが……ユウナの旅の終わりが、オレの使命が終わる時だ」
「…………」

アーロンの言葉に、私はまた涙がにじむ。泣いた後は癖になっているのか、涙が出やすい。でも、「いや」なんて言えない。そんなこと言ってもどうにもならない。アーロンを困らせるだけだ。

「……」

だから私は、かわりにアーロンの胸に正面から顔を埋めてギュとしがみつく。こうして、アーロンは存在してるのに。

「茉凛……」

アーロンが、私の肩を掴んで己からはがす。私の高さに目線を合わせると、私の頬に手を添えて、私の瞳から流れる大粒の涙を親指で拭う。

「悲しませてすまない。茉凛」
「……」

私の涙はとまらない。次々溢れ出てくる。せめて、最期の時まで。私だけのアーロンでいて。

「ごめん。茉凛。愛してる」

唇が触れ合うだけのキスをされた。そして優しく抱きしめられる。私は、アーロンの胸に顔を埋めて泣いた。一しきり泣いて、私はアーロンとともにシーモア屋敷を出た。正面にある水場の周りに皆は居た。

これから、異界に行くらしい。ユウナが異界のお父さんに会って考えたいみたい。異界への入口の階段のふもとに到着したとき、ティーダが皆を引き止めた。

「誰かが死んだら、召喚士が異界送りするんだろ?んで死んじゃった人の魂は異界に行くんだよな?でさ、これから行くのがその異界?そこには、ユウナのオヤジさんが居る?ようするに、死んじゃった人が住んでんのか?んあ……」
「ま、行けばわかるさ」

ワッカの声で皆は異界への階段を登り始めた。すると、アーロンは、ふもとの階段に腰を降ろした。それに気づいたティーダがアーロンに声をかけた。

「どーして行かないんだ?」
「異界は気にくわん」

すると何故かティーダが私をちらと見て、にやりとした。何……?

「……怖いんだろ?」

すると呆れたようにアーロンは答えた。

「未来の道を決めるために過去の力を借りる……異界とはそんな場所だ。性に合わん。……さっさと行け」

私はアーロンの隣に並んで腰掛ける。

「行ってらっしゃい、ティーダ」
「茉凛も行かないのかよ」
「ここで待ってるね」
「さっさと行け」
「ったく……わかったよ」

アーロンによってなかば追い払われるように異界へ行ったティーダ。二人だけになったので、アーロンの横にピッタリくっつく。私は決めたのだ。残り時間が少ないのなら。アーロンとしたいこと、イケナイこともするんだって。アーロンの手を取り、恋人繋ぎにして、私の太ももの上に置く。

「おいおい……」

少し照れるアーロンに、私はニッコリする。

「誰も見てないよ。みんなが戻ってくるまで、ゆっくり恋人感覚味わお?」

アーロンの手を握って自分の太ももに置いたまま、アーロンの肩に頭を乗せる。アーロンが私の短いスカートと、私によって直接太ももに乗せられた手を気にしているのを、気づかないフリして眺める。ふふふ……アーロンかわいい。

「ったく……」

そう言いながら、私の好きにさせてくれるアーロンが愛おしい。私は横顔のアーロンをチラと見ると、ニヤと悪い笑顔を浮かべる。アーロンの手を握ったまま立ち上がると、アーロンの膝に腰を下ろす。私にされるがまま少し驚いた顔のアーロンを楽しみつつ、繋いでいた手をゆるめて私のウエストに回す。できあがり!とニコーっとすると、またもアーロンはやれやれとため息をついた。だけど、空いた手で私の頭をなでられる。心地いい。心地良すぎて、私のウエストをガッチリ抱き寄せられたのを良いことに、私はアーロンの首に腕を回してギューっと抱き着く。

「アーロン好きー」
「おいおい……」

そう言いながら、私を抱きしめ返して応えてくれるから愛おしい。

「誰かに見られたらどうする」
「そ……?」

私は大人しくアーロンの首から離れると、アーロンの膝に座る。だけど、アーロンの片手を自身の肩を抱きしめさせて、利き手を持ち上げると……

「何をやっている」
「恋人行為?」

コテン、と頭を傾けながら、自身の胸を触らせる。

「恋人行為って……」
「ね、アーロン……こういうこと、私にシたくない……?」

セーラー服の胸元が、アーロンの手で皺になるほどこすらせる。

「茉凛、」
「アーロンならいいよ……?私に。こういうコト」

アーロンの両手で、背後から自身の胸を揉ませる。私は、貧乳じゃない。やがて、アーロンの手を私のセーラー服の裾から差し込み、脇腹に這わせる。

「……」
「ね……?、っきゃ!」

突然手を振りほどかれたと思ったら、アーロン自ら私の胸をセーラー服越しに揉んできた。一瞬驚いたけど、アーロンを振り返りの目を見上げて、ニコリとする。

「もう……激しすぎ」
「茉凛はひどいことをされるのが好きなんだな」
「違うよ、優しくして、やん……」

片手をセーラー服の裾から差し入れられる。アーロンの手が脇腹を這い、下着に到達する。

「あ……アー……ロン、」

片手だけセーラー服の中で下着越しに揉まれる胸。セーラー服の内側が片胸だけ動くさまが、ひどく……

「あ……もう、みんな……帰ってきちゃうよぉ……」

下着のカップから指先を差し込まれ、乳首をつままれる。

「ゃ、あ……これ、以上、は……っ、」

とろけそうになる。瞬間、パッとアーロンの手が離れた。

「アーロン……?」
「ここまで」

おしまい、とばかりに立ち上がるアーロン。

「やだぁ……アーロン、最後までシてぇ……」
「調子に乗るな」

ペシっと頭をはたかれる。

「はぁーい」

ちぇー。バレてたか、と私は制服を整える。みんなを迎えに行くのか、階段を異界への入口の中腹まで登って行くアーロンの後ろ姿を見上げる。ふふふ……全然理性余裕だった。やっぱりオトナのオトコは違うわぁ。いつかアーロンの理性ふっ飛ばして、私をむさぼるところを見てみたいなぁ。

「ジスカル様!?」

悲鳴に振り返ると、ユウナ達が戻ってきていた。さらにその上の異界の入り口から、シーモアの屋敷の肖像画で見たまさにジスカル様が異界から出てこようとしていた。

「迷って……いるようだな。ユウナ、送ってやれ」
「はい」

アーロンに従って、ユウナの異界送りが始まった。

「くっ……!」

魔物が死んだときに舞う幻光虫が、アーロンの周りに纏わりつき始めていた。片膝を地面に着く寸前に、慌ててアーロンを支える。とても苦しそう。やっぱり……アーロンって死人なんだ……私は涙を振り払い、アーロンに言った。

「離れよう、アーロン……!」

アーロンの腕を取り、立ち上がろうと肩にかけるも。アーロンは苦しそうで……ユウナの異界送りが終わって、ようやくアーロンは落ち着いたのだった。

「さっきの、どういうことだ?何でジスカル様が?」

グアドサラムへと戻る一行の先頭で、ワッカがぼやいた。アーロンは異界から離れるともうピンピンしているようで安心した。

「異界送りされなくて、魔物になったんだろ?」
「異界送り……されたのかもしれないわ。それでも、スピラにとどまった。強い、とても強い思いに縛られていたら、そういうことも有る。……らしいわ」

強い思い、かあ……。シーモアの屋敷まで戻ってくると、ユウナが私達に向き直った。

「私、シーモア様に会ってきますね」
「ユウナ」

引き止めたのはアーロン。

「ジスカルのことはグアドの問題だ。おまえが気にすることはない」
「………」

一瞬動かなかったユウナだけど、シーモアの屋敷へと消えると、皆各々好きなところへ解散した。

「どこかで座ろっか」

みんなが散らばったので、私がそう言うと、アーロンは私をジロリ、と見下ろしてきた。

「え、なあに?」
「……お前、さっきみたいなことは、」
「ち、違!そんなつもりでアーロンをどこかに連れ出そうとなんてしないよ!」

ちょっと恥ずかしくなって顔を赤らめると、アーロンが笑った。

「半分冗談だ」
「半分!?」

私は半泣きになりながら抗議した。そして、シーモアはマカラーニャ寺院とやらへ向かったらしいことをユウナの報告で知り、一行は雷平原へと向かった。