ルカ




5番ポートと書かれたポートの手前まで連れてこられると、ようやくアーロンの走る足が止まった。

「…はぁ、…はぁ、…はぁ、」

手を離されないまま、肩で息を整えながら辺りをすばやく見回す。此処にはモンスターは居ないようだった。アーロンが私を安全なところまで連れてきてくれたらしい。

「ありがとう。二度も、助けてくれて」

ようやく落ち着いてきた呼吸。私は笑顔でお礼を言った。すると、アーロンは私を注意深く見てきた。

「な、なあに?」

そんなにジッと眺められると……。

「名は?」
「あ……茉凛」
「茉凛か」

アーロンはそう言って視線は海を眺めた。何かを考えているように見える。

「茉凛。俺から一つ提案だ」
「?」
「俺と来ないか?」
「あの……?」
「……見たところ」

じ、とサングラス越しに見降ろされる。

「行く宛も無いのだろう?」
「……」

なぜだろう。この人にはすべて、見透かされてるような気分になる。
言ったほうが良いよね。今の私の、信じられないような状況を。

「……それを決める前に、私の話をしても良い?」
「ああ。なんだ」
「うん……最初に助けてもらった時ね、」

私はポツリ、ポツリ、と話し始める。激しい頭痛がして、気がついたらあの場所で寝ていたこと。ここが、全然知らない場所ということ。

「そんな気はしていた」

話し終えたらアーロンが言った。

「そんなに不安がるな」

優しく声をかけてくれる。

「帰る糸口が見つかるまで、俺が面倒を見てやる」

アーロンのサングラス越しの優しげなまなざしに、それも良いかもしれないと思った。

「……ありがとう」

この人なら……そう思った。

「行くぞ」

私が頼れるのは、アーロンだけ。

「待って、アーロン」

これまでの不安な気持ちを拭うように顔を上げて、先を行くアーロンの背中を追った。そういえば、頭痛もいつの間にか治ってる。

「……何を笑っている」

追いついてアーロンの隣を歩き出すと、サングラス越しに訝しげに見降ろされていた。

「えっ私、笑ってた?!」

思わず両手で頬を覆う。そんな私をどこか面白そうに、アーロンがフッと笑った。

「茉凛。お前は別のとこから来たと言ったな」
「うん……たぶんだけど」
「念のために一般常識を説明しておこう」

こちらを向いて立ち止まったアーロンに、私も歩いていた足を止める。

「ここは、【スピラ】。この街は【ルカ】だ。“シン”という大型のモンスターに人々は脅え、いつ襲ってくるともわからない、生きることに精一杯の世界だ。だが、その “シン”を倒し、なににも脅えることなく眠れる生活を作り出せる者が居る。召喚士だ。召喚士は “シン” を倒すためこのスピラ中の寺院を回り、“シン” を倒す力を得る旅をする。その召喚士の旅に同行して召喚士が無事 “シン” を倒すサポートをするのがガード。これから俺が務めることだ。オレは10年前にもティーダの父親とガードをした。これからガードを務める召喚士は、当時ガードを務めた召喚士の娘だ。……飲み込めたか?』

コクコクと頷いて見せる。

「おいおい伴ってくる」

アーロンはそう言うと、広場のアーチをくぐって階段のほうへ進んで行った。

「私……大変なとこに来ちゃったんじゃない……?」

急に、ずぅーんと重いものが心にのしかか?。

「あの、さ、えっと……茉凛?」

後ろから遠慮がちにかけられた明るい声は、さっきスタジアムで一緒に戦っていた金髪男子だった。彼はアーロンとは面識があったようだった。名前は、確か。

「なあに?ちーだ」
「いや、ちーだって」

項垂れてしまった、頭一個分上にあるちーだ。

「ティーダな」
「ティーダね!ごめんっ」

ティーダは笑ってくれた。

「そんなことよりさ!……茉凛は女優か何かなのか?」
「え?」

アーロンに続いてアーチをくぐり、階段を登り始める私は驚いた。

「じゃあ、モデル?」
「ううん」
「女子アナ?」
「ううん」
「じゃあなに?」

他に何もない、って顔してるんだけど……。

「普通に高校生だよ?」
「ダウトッ!!」
「古ー!」

思わず笑ってしまう。

「じゃあ!アーロン!アーロンとは知り合いなのか?」
「知り合い……と言えば、知り合い。なの……かな……?」

さっき屋根の上で降りれず困っていたところを助けてもらって、スタジアムでも助けてもらって、行くとこが無くて着いて来いと言われたから着いて行くことになった人を、果たして知り合いと言うのだろうか……。

「歯切れ悪いッスね〜……あっでも、オレも茉凛と似たようなものッス!」

突然ウキウキしだすティーダのことより、ついに階段を登り終えて目の前に広がる景色のほうが、遥かに私の興味を惹いた。

「わー……!綺麗な景色……!」

【ルカ】の街が一望できる高台へと到着した。

「アーロンさん!」

若い女性の声。振り向くと、歳の近そうな可愛い女の子が私たちに走りよってきた。彼女の後ろには、妖艶な女性と、さっきスタジアムでティーダと知り合いそうだったオレンジ頭の人、そして青い人(人?人だよね?どうしよう。よしペット)が居た。
私はアーロンの少し後ろに控える。もしかして彼女が、私達がこれからガードを務めるショーカンシさん?

「ユウナ。これよりお前のガードを務めたい」
「アーロンさんが!」

えらい驚かれようですが。大丈夫ですかアーロンさん?話通ってる?もしかしてアポもせずにいきなりうら若き乙女の護衛に着きたいと、申し出たのですかアーロンさん?

「ブラスカとの約束だ」

あ、なるほど。

「父がそんなことを……」
「ティーダはジェクトとの約束だ。それと」

ぐい、と肩を抱かれて、突然みなさんの視線にさらされる。

「こいつも連れて行く」
「……茉凛です、よろしく」

ぺこりと頭を下げて顔をあげると、最初が肝心だと、にこりとする。
ってちょ……ほらぁ!!みんな「誰?」って顔してますけど大丈夫なのアーロンさん!?涙目でアーロンを見上げる。

「茉凛はオレが責任を持つ」

あ、え、せ、責任。……さいですか。

「よろしくね」

ユウナと呼ばれた可愛い女の子がにっこりと笑顔を向けてくれた。すると、他の方も歓迎ムードになった。い、良い人達そう〜〜っ!

「これからの予定を説明してくれ。次はどこの寺院だ?」

アーロンが、妖艶なねーちゃんに絡みに行ってた。