マカラーニャ寺院




スノーバイクを降りてガード全員で入口をくぐると、直ぐにマカラーニャ寺院。かと思いきや。

「わあ!すごい!綺麗〜」
「氷の参道よ」

氷の参道はとても高くて、底なんて見えなくて。雪の細道が、大きく右にカーブしてその先にマカラーニャ寺院が見えた。景色を楽しみつつマカラーニャ寺院の中へ入り試練の間へ向かおうとした時、悲鳴が響き渡った。

「……!」

ガード一同は右の小部屋へ急いだ。

「これがユウナを悩ませる原因……だな」
「雷平原でユウナが突然結婚宣言した時にティーダが言ってたあのスフィア、ってコレのこと?」

ティーダを見ると、頷いた。

「……観てみるッス」

スイッチを入れて表示された画面には、シーモアの父、ジスカルさん。

《わしがこれから言うことはくもりなき真実。グアドの誇りにかけて誓おう。心して聞いてほしい。我が息子、シーモアのこと。あやつが何を考えておるのかわしにも分からぬ。見えるのは、ただあやつの胸に燃えさかる黒い炎。あやつはエボンを利用し、グアドを利用し、召喚士を利用し……このままでは……スピラに災いをもたらす者と成り果てるだろう……わしは……間もなく死ぬ。わが子によって、殺められ》

「っ!!」

思わず息を呑んだのは、私だけではなかった。口元を両手で覆いながらも、続きを聞き洩らさんと集中する。

《それは受け入れよう……わしが不甲斐無いばかりにあやつは苦しみ、歪んでしもうた……わしはシーモアとあれの母親を世間から守ってやれなかった。わしにかせられた罰として、この死を受け入れよう……》

そんな……

《しかし……コレを見る者よ。シーモアを止めてくれ。息子を………………頼む》

映像はここまでだった。

「フン。こういうことか。ここまで大事だとはな……」

これまでで一番の溜息をつきながら、足早に部屋をあとにしようとするアーロンに、私も連れられて歩く。ユウナのとこに行かなきゃ……!

「ええ?!」

困惑し慌てるワッカの声に振り返ると、先にティーダが口を開いた。

「シーモアはヤバイ。それはハッキリしただろ!」
「相手はエボンの老師だぞ!?」
「んあああ!じゃあワッカはここに居ろよ!」

そこまで言うと、ティーダは私たちを追い越して試練の間の入り口へ走った。そう、目指すはユウナの居る場所。祈りの部屋。試練の間前でアーロンが、先へ行け、と言ったけど。私は試練の間へ少し先に進んだだけで、その場でアーロンを待った。そこへ来たワッカに、アーロンが告げる。

「相手の出方次第では……やる。……覚悟しておけ」
「ははは……アタマん中、まっしろだぜ……」

ワッカの気持ちを思うと少し可哀想に思いながら、私はワッカになんて声をかければいいのかわからなかった。

「老師に非があれば……仕方ない……!」

ルールーは覚悟を決めたみたい。こういうとき、心をしっかり持てるのは、やはり女のほうだと思う。私達は、ユウナの居る奥の間へ急いだ。

「シーモア!!」

殴り込み同然で、ティーダが吼えた。

「お静かに。ユウナ殿が祈り子と対面中です」
「うるせえ!」

その時、祈り子の間の扉が開いて、ユウナが出てきた。

「……!?みんな、どうして此処に!?」
「ジスカルのスフィア見たぞ!」

ティーダの言葉に、私も大きく頷いてユウナを見つめる。ユウナが察する。すると、あれだけ沈着冷静なシーモアに、微かに動揺が走ったように見えた。

「……殺したな」

アーロンが核心をついた。

「それが何か?」

決定的だわ……。

「ユウナ、こっちへ!」

ユウナを呼び、シーモアから離れさせる。

「もしや……ユウナ殿も既にご存知でしたか?」
「……はい」
「ならば……何故わたしの元へ?」
「私は…………」

ガードの元へちょうど到着したユウナが、シーモアに振り返る。

「あなたを止めに来ました」
「なるほど……あなたはわたしを裁きに来たのですか……」

シーモアの視線が私に移った。グアドサラムでキスされたことを思い出して不快になる。

「茉凛殿まで。残念です」
「……みんな、聞いて。グアドサラムで、屋敷を出る直前に私。この人にセクハラされたの。ユウナに結婚を申し込んだ後よ。……黙っててごめん」

みんなに動揺が走った。両脇にいたルールーとリュックが私の肩に手を置いた。ガードはシーモアからユウナと私を守るように前に立った。

「……なるほど。命を捨てても召喚士を守る誇り高きガードの魂……見事なものです。しかし茉凛殿。私は本当にあなたを魅力的だと思ったのですよ」

ユウナを前にして、シーモアの態度に、我慢できそうもなかった。

「そんな覚悟で。ユウナレスカとゼイオンのように、ユウナと絆を作れると思ったの?バカにしないでよ。ユウナが、あなたが父親を殺したと知ってもなぜ結婚を承諾したと思ってるの!」
「茉凛」
「っ、」

止めたのはアーロンだった。

「お前が泥を被ることはない」
「……、」
「オレに任せろ」

アーロンは言うと、スッとシーモアに顔を向けた。

「あの時、決着を着けた筈だが?」
「フフ……そうでした。ユウナ殿、御無礼をお許しください。しかし私は本当に、花嫁としてユウナ殿を迎えたかった……それだけにとても惜しいです……ですが私のものにならないのなら。その命、捨てていただこう!」

ユウナ一行は、手下も、アニマも、シーモアも、復活したシーモアも。全員オーバーキルの一撃でフルボッコで片した。

「くっ……はぁ、はぁ、」

遂に膝をついたシーモアに、ユウナが駆け寄る。

「今更……私を……哀れむのですか……?」

そして、シーモアは地に伏せた。

「……………」

ああ。殺してしまった。……殺してしまった……

「おいっ、」

眩暈で倒れた。アーロンが抱きかかえてくれなかったら、頭を打っていた。アーロンの腕の中、ユウナが息絶えたシーモアの見開いたままの目を閉じてやるのが見えた。鎮まる室内。きっとルールーも、ワッカも、キマリも、リュックも。スピラの人だってみんな、この状況に放心状態。
その時扉が開かれる音がして、皆一斉に振り返った。

「おお……………シーモア様!?」

トワメルさん、以下グアドの人たち。

「い、一体何が!」

震えながらシーモアの側へ来るグアドの人たち。

「お……………オレは……………」

いけない、ワッカが。アーロンの手を借りて私も体勢を立て直す。

「ワッカ。気にすんな。先に手を出したのはシーモアだ」
「なんと!貴方達が!」

ティーダの言葉に、わななくトワメルさん。

「ユウナ……送ってやれ」
「おやめなさい!」

アーロンの言葉で異界送りを始めようとしたユウナを、激しく静止したのは、トワメルさんだった。

「反逆者の手は借りません!!」

グアドの人達はシーモアの遺体を担ぎ出て行った途端、ユウナが地面に崩れた。

「反……………逆……………者……………」

ユウナ……

「もう……………終わりだ」

ワッカ……

「ちょっと待てよ!悪いのはシーモアだろ!それを説明すればわかってもらえるって」
「それほど甘くはないだろうが……」

ティーダの言葉にアーロンが言った。私もそう思う。でも今はそれより、

「……アーロン……」

アーロンの腕に抱きしめられながら、アーロンの服を摘んで促す。

「ああ……此処を出るぞ」

控えの間を脱出し、試練の間を突破して広間へ降りたら、たくさんのグアドの人達が居て……

「申し開きの機会をくれ」

アーロンが先頭にいたトワメルさんに申し出た。

「他の老師たちへは、わたしが報告しておきましょう」

え?

「と言うと?」
「シーモア様はエボンの老師である前に、グアドの族長ですから」

まさか……

「やるってことッスか」

ティーダがトワメルさんを睨みつけるも、トワメルさんも負けず涼しい顔で、

「ここから無事に帰してしまっては、シーモア様が許しますまい」
「!」
「待ってよ〜!ほら、あのスフィアを見れば、わかってくれるよ!」
「これですかな……?」
「!やめてっ」

バリンッ。証拠隠滅……なんてことを。

「グアドの問題は、グアドが解決します!」

もう……終わり。

「どけェ!!」
「キマリん!?」

グアドの人たちを薙ぎ払うようにスティンガーを振り回すキマリんに、一瞬呆然とする。

「走れ!!茉凛!!」
「きゃっ……!」

グイっと手を引かれ、アーロンに続いて皆でマカラーニャ寺院から逃亡する。どんどん距離を詰められ、何度かグアドの追っ手に掴まり、スノーバイクで通った場所で今度は野生の魔物に掴まった。

「しっつっこーい!」

リュックが叫んだ。マカラーニャ寺院に行く前にアルベド族とバトルした開けた場所、凍ったマカラーニャ湖で、ウェンディゴを連れたグアドの追っ手に掴まってしまり、いつものごとく余裕のオーバーキルで倒すも。

「きゃあ!」
「茉凛!」

ウェンディゴが最期の力を振り絞って足元のマカラーニャ湖の凍った地面にパンチを入れたおかげで、ガラガラと崩れ行く足元。最後の一手のターンで前線に配置していたアーロンが、控えの私のとこまで来て庇うように抱きしめられながら、マカラーニャの深い底へと落ちて行くのだった。